"元義母の仕送り要求と元夫の嘘泣き目薬" 第4話
「おーい、ゆかりぃ……。お、の課なんだろ? ちょっと頼みがあるんだよ」
「……何よ。お酒臭いわ、お呂に入ってきて」
私がを引こうとすると、憲吾は私の腕を乱暴に掴んで引き寄せた。
「うちの会社さぁ……今、資繰りがマジでヤバいんだよ。おの力を使って、うちの会社への融資額をドカンと増やすように、の審査部にを回してくれよ」
私はを疑った。
員として、決して越えてはならない絶対の線――背任、あるいは正融資への加担。それを、実の妻に平然と求してきたのだ。
「何を言っているの!? そんなこと、できるわけがないでしょう! 犯罪よ!」
私がい語気で拒絶すると、憲吾の瞳に劣で卑しいが宿った。彼はニヤニヤと醜悪な笑みを浮かべ、私の顔を覗き込んできた。
「なんだよ、ケチくさいこと言うなよ。おのその自の美貌は、こういうに使うための武器じゃないのか? 女の武器をうまく使って、審査部の偉い奴らを適当に転がせば簡単だろうが」
パチン、と私ので張り詰めていた最の糸が、音をてて切れた。
にわたって積みげてきた私の努力も、員としての矜持も、彼にとっては「男を釣るための具」程度にしか見えていなかったのだ。としての尊厳をここまで完膚なきまでに踏みにじられたのは、まれて初めてだった。
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「……もう、あなたとは言も話したくない」
私は彼の腕を力任せに振り払い、寝へ向かおうと背を向けた。その私の背へ向けて、憲吾は酷極まりない最の暴言を吐き捨てたのである。
「あーあ、使えない女だな! そんな簡単なこともできないなら、おと結婚したなんて最初からなかったわ! この、おといたは全くの無駄だったよ!」
無駄。
その言葉が、リビングの壁に虚しく反響した。
彼にとって、私がを削って働き、庭を支え、彼の母親に毎万円を送り続けたは、すべて「無駄」だったのだ。
もう、この男と共に歩む未来はミリたりともしない。私は静かに、だが鋼のような固い志で、婚を決した。
憲吾が吐き捨てた「無駄だった」という呪詛のような言葉は、皮肉にも、私のに残っていた最の躊躇を綺麗さっぱり拭いってくれた。
彼に対するも、共に過ごしたへの未練も、朝が陽に蒸発するように消え失せていた。
翌朝、私はの空がみ始めた午に目を覚ました。寝をて、静まり返ったリビングのダイニングテーブルにつき、あらかじめ元に用してあった婚届の用を広げた。
万のキャップをし、妻の署名欄にペン先をらせる。文字、文字、自らのたなを取り戻すための誓いを刻み込むように、淀みなく名をき込んでいく。
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そこには、迷いも恐怖も、微もしなかった。
午を過ぎた頃、酔いで痛むを抱えながら、憲吾が寝からふらふらとてきた。キッチンへをみに向かおうとした彼のが、テーブルのに置かれた緑の類を捉えてピタリと止まる。
「……なんだよ、これ」
憲吾は目を擦り、信じられないものを見るように用を凝した。
「昨の今で、本気なのか?」
その声には、昨夜の尊な態度はを潜め、隠しきれない焦りと揺が滲んでいた。私は背筋をまっすぐに伸ばし、静かに彼を見据えた。
「ええ、本気よ。昨夜、あなたの本音がはっきりと聞けたおかげで、私の覚悟も完全に決まったわ。もう、あなたと緒にいる理由は、この世界のどこにもひとつもないの」
私の静かでありながら、切の妥協を許さない徹な声に、憲吾は瞬気圧されたようにずさりした。しかし、彼のに巣う歪んだプライドが、すぐにふてぶてしい態度を取り戻させた。彼はわざとらしくの端を吊りげ、嘲笑を浮かべてみせた。
「……ふん! いいぜ、別に。こっちから願いげだ! だがな、タダで別れてもらえるとうなよ? おは俺よりずっと稼いでるんだから、慰謝料はたんまり分捕ってやるからな。それが別れる側の筋ってもんだろうが!」
最まで、、。
この男の浅ましさには、もはやりすら湧かず、ただただれみと軽蔑のしか覚えなかった。