"廃線の駅で待ち続けた父" 第19話
入ってきた若い駅員のろから、背筋のピンと伸びた、代半ばの男性が姿を現した。 品なツイードのジャケットを着て、穏やかな笑みを浮かべている。 田健だった。
「……健さん」 がちがると、健は々とをげた。
「駅。……今が、最のだとお聞きしましたので」
健のには、箱に入った見事なリンゴが抱えられていた。 「うちの果園で、今初めて採れた種のリンゴです。『修』と名付けようかとったんですが、妻に笑われましてね。『青の』という名にしました」
は応接セットのソファに腰掛け、懐かしい昔話にを咲かせた。 梨駅も、柴田も、すでに鬼籍に入っていた。あの激の昭のをる者は、今では町のでもと健のだけになっていた。
「さん。……お父さんがくなる夜、私にこう言ったんです」
健が、窓のの代なプラットホームを見つめながら、静かに語り始めた。
「『健、おをあの列から突き落とした、修はきっと、自分の命が助かることなんて考えていなかったはずじゃ。……あの子はな、未来を信じたかったんじゃよ。自分がんでも、この国がいつか平になって、おのような子供たちが腹杯飯をえるが来ることを信じたかったんじゃ』と」
健は目元を細めた。
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「私はその言葉を胸に、今まできてきました。……修さんが遺してくれた命を、恥じないように。お父さんがくれたを、裏切らないように」
健は懐から、通の封筒を取りした。 「これは、お父さんの遺品を理していたに見つかったものです。……さんに宛てたでした」
は息を呑み、封筒を受け取った。 表には、源吉の震えるような、けれど力い毛で、こう記されていた。
『透殿 青の駅を守りしへ』
駅の柔らかなのので、は震える指先で封を切った。 から現れたのは、枚の古びた便箋だった。
『さん。 おさんがこのを読む頃、わしはもう修の隣におるじゃろう。 おさんに、つだけ謝らねばならんことがある。
わしは、あの廃ホームのベンチで、ただ汽を待っていたのではない。 わしはな、怖かったんじゃ。 におれば、修がもうおらんという現実に押し潰されそうになる。 畑にれば、あの子と緒に耕すはずだったが、しくて直できん。
だから、わしは駅へ逃げとったんじゃ。 汽を待つという実を作って、あのベンチに座り続けることでしか、わしは自分のを保つことができんかった。 れな、い父親じゃった。
けれど、おさんが来てくれた。 おさんが、わしの閉ざしたの扉を叩き、あの子の真実を探ししてくれた。
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そして、健を連れてきてくれた。
あのから、わしのはやり直すことができた。 止まっとった計の針が、音をててきしたんじゃ。 わしにしい息子をくれて、しい命のをくれて、本当にありがとう。
さん。 駅とは、が会い、別れ、そして再び巡りう所じゃな。 線が途切れても、の祈りがある限り、のの列はり続ける。 わしは今、幸せじゃ。 修の誇りと、健の温もりを両に抱いて、胸を張ってあの世へける。
どうか、これからもあの駅を守ってやっておくれ。 いつか、誰かが切なを待つために、その扉をけるのために。
昭 本源吉』
を読み終えた、の界は涙で完全にぼやけていた。 滴の涙が、便箋の「本源吉」という署名のに落ち、の繊維に静かに染み込んでいく。
「源吉さん……」
はちがり、窓辺へと歩み寄った。 に広がる青駅のプラットホーム。 かつて廃線跡だった所は、今では町の々が憩うさな「ふれあい公園」として備され、とりどりのパンジーやチューリップが咲き乱れていた。 そして、その壇の央には――あの製のベンチが、当のままの姿で、切に保されていた。
公園のベンチには、買い物を終えた老夫婦が腰をろし、楽しそうに笑いっている。
途の学たちが、ランドセルを揺らしながら元気にを振って通り過ぎていく。
そこには、もはや戦のい傷跡も、飢えと恐怖のもなかった。 源吉が、修が、そして健が、命を賭して繋ぎ止めた「平な常」が、当たりのように息づいていた。
「健さん」 は振り返り、涙を拭って微笑んだ。 「きましょうか。……最に、あのベンチでお茶でもみませんか」
「ええ、んで」
は駅をて、のに満ちた駅広へと歩きした。
改札のチャイムが、軽やかな音でしい列の到着を告げる。 本線の最型気が、滑らかにホームへと滑り込んできた。 ドアがき、たくさんの笑顔が、のへとりっていく。
ととを繋ぎ、過と未来を繋ぐ所。 線が途切れた終着駅は、いつしか、誰もがしい歩を踏みすための「始発駅」へとまれ変わっていた。
く、空の彼方から、よいが吹き抜けていく。 そののに、には微かに聞こえたような気がした。 あの懐かしい、力く澄み渡る、蒸気関の汽笛の音が。
それはもう、過への未練を告げるしい音ではなかった。 を向いてきるすべての々の背を優しく押しす、希望の響きだった。