"3回洗う夫と6年潜伏の財閥令嬢" 第20話
私のその酷なまでの沈黙と見すような差しに、健は真の絶望をわった。
自分がもはや、彼女にとって言葉を交わす対象にすらなっていないこと。
完全な敗。
圧倒な格差。
「あぁ……ああぁぁぁぁ……」
が完全に折れ、絶望の叫びをげる健。
だが、極限まで追い詰められたの狂気は、として恐ろしい事の馬鹿力をみす。
「このまま終わって、たまるか……!」
健の目が異様にった。
「おだけは……おだけは連れにしてやる!」
健は突然、れした凄まじい力で2の警官を弾きばした。
そしてをうようない姿勢で、玄関の駄箱の奥へとを伸ばしたのだ。
そこには、先ほど鳥会が訪ねてきた際、健が慌てて蹴り込んで隠したあのラベルのない薬品のボトルが転がっていた。
骨をも溶かす、極めて酸性の危険な液体。
「美咲!!」
健は狂気に歪んだ笑顔を浮かべた。
ボトルのキャップを乱暴に引きちぎる。
そののドロドロとした薬品を、無防備な私の顔面めがけてい切りぶちまけた。
「お嬢様!」
田と鳥会の鳴が交錯する。
スローモーションのように宙をうの薬品。
鳥会の鳴と田がびそうとする音が、ひどくくの世界の来事のように聞こえた。
バシャッ。
くたい液体が、私の顔面から首筋、そして着ていたの胸元にまで容赦なくぶちまけられた。
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烈な塩素の匂いがを突く。
ポタポタと、元のタイルのに液体が滴り落ちる。
「アハハハハ!ざまは見ろ!」
薬品を投げつけた健は、にいつくばったまま、顔の穴という穴を全にして狂ったように笑いした。
「美咲!おみたいな卒の底辺女が、俺に勝てるわけないんだよ!」
彼は指をさして笑う。
「親の威にすがるしか能のない汚い寄虫め!おの好きなリナと同じように、ドロドロの肉片になって排溝に流れ込んでしまえ!」
狂乱状態の健は、両をバンバンとに叩きつけながら、ありったけの侮辱の言葉を喚き散らした。
「痛いか!いか!顔の皮膚が溶け落ちて骨が剥きしになる気分はどうだ?」
健は勝ち誇るように叫ぶ。
「さあ、俺に座して命乞いをしろ!『助けてください、私が違ってました』って泣き叫んでみろよ、この無能なゴミ女が!」
勝利を確信した悪魔の絶叫。
私が顔を押さえてのたうち回り絶命していく姿を像し、健は恍惚とした表を浮かべていた。
しかし、私はピクリともかなかった。
鳴もげず、顔を覆うこともせず、ただ静かにち尽くしている。
そしてツツッと顎を伝って落ちる無透の液体を、着ていたカーディガンの袖でゆっくりと拭い取った。
私の肌は赤く腫れることも、溶けることもない。
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ただ、し濡れてたくなっただけだ。
私は氷のようにえ切った瞳で、いつくばって笑う健を見ろした。
まるで傍のでも見るかのように、無言で。
切のを排した完全な沈黙だった。
「……え?」
健の狂った笑い声がピタリと止まった。
「な……なんで……?」
彼は信じられないというように目を見く。
「なんで溶けないんだお……なんで鳴をげない!」
健は目玉がこぼれ落ちそうなほど見いた。
私の無傷の顔と、に転がった薬品の空ボトルを交互に指さした。
「嘘だろう……それは体を骨まで溶かす、特別製の……」
「本当に最まで滑稽な男だな」
田が鏡の奥の目を細め、底呆れたようにため息をついた。
「俺たちが、おのような狂に本物の殺兵器を持たせたまま泳がせておくわけがないだろう」
「……なんだと?」
健が抜けな声を漏らした、そのだった。
「その通りです」
たな声が響く。
「あなたがさっき投げつけたのは、ただのに微量の塩素系漂剤を混ぜて匂いだけを似せた偽物ですよ」
先ほど『呂から骨を発見した』と報告してきた防護姿の鑑識員が、静かに玄関のに歩みてきた。
彼は顔を覆っていたマスクとゴーグルをゆっくりとし、健に向かってニヤリと笑いかけた。
「あ、おは……!」
その顔を見た瞬、健は幽霊でも見たかのように鳴をげてずさりした。
無理もない。