"3回洗う夫と6年潜伏の財閥令嬢" 第4話
ゆかりは引きつった笑いを浮かべた。
「ええ……」
彼女はし顔をこわばらせて頷く。
「健さんもお仕事と両されて変ですね」
ゆかりはそれだけを答えた。
健は満そうに頷いた。
「さて」
彼は斎の方へ線を向ける。
「俺は斎でし仕事をしてから会社に戻ります。ごゆっくり」
健はリビングをれ、廊の奥にある斎へと消えていった。
バタンといドアが閉まる音が響く。
その瞬、ゆかりは私にすっと顔をづけた。
周囲を激しく警戒しながら、彼女は私の元で囁いた。
「美咲、よく聞いて」
彼女の目は再び恐怖に見かれていた。
「今は絶対にあの男を刺激しないで」
ゆかりは自分のバッグを引き寄せた。
「私は急いで学の研究に戻るわ」
私は戸惑い、彼女のの袖を掴んだ。
「ええ、でもさっき警察を呼べって……」
私は斎の方をちらりと見る。
「あいつが帰ってきた以、今は迂闊にけない」
ゆかりは私のを優しく握った。
「それに、確実な証拠が必よ」
彼女は真剣な差しで私を見つめた。
「いい?絶対にで呂にはづかないこと」
ゆかりはちがり、帰り支度を始めた。
「今夜必ず連絡するから、それまではいつも通り従順な妻を演じなさい」
ゆかりは逃げるように荷物をまとめた。
彼女はに玄関へ向かい、をっていった。
広告
玄関のドアが閉まる。
のには再び、私と斎にいる健の2きりになった。
静寂に包まれたリビングで、私は1ち尽くした。
たくなった両を、く握りしめる。
ゆかりのあの異常な怯え方。
プロの法医学者である彼女は、うちの呂で体何を見たのだろうか。
壁の計の針が、チクタクと無質な音をててんでいく。
健は斎にこもったまま、てくる気配がない。
『絶対にで呂にはづかないこと』
ゆかりの忠告が、ので何度もリフレインする。
だが、このまま何もらずに夜を待つことなんて、私には到底できそうになかった。
自分の元が音をてて崩れていくような覚の、私はどうしても確かめずにはいられなかったのだ。
私はそっとちがった。
靴越しに音を忍ばせて、廊へとる。
斎のドアは固く閉ざされている。
私は息を殺しながら、問題の洗面所へと向かった。
洗面所の空気はどこかひんやりとしていた。
微かに、あのツンとするい薬品の匂いが漂っている。
私は呂の扉にをかけた。
ゆっくりとスライドさせてける。
綺麗に磨きげられた真っなタイル。
滴1つない浴槽。
見すると、ただの異常なほど清潔な浴にしか見えない。
だが私は、ふと元に線を落とした。
排溝のステンレスカバーの隙に、何かさなものが引っかかっているのに気がついたのだ。
広告
私はしゃがみ込み、目を凝らした。
それは髪の毛ではなかった。
やカビでもない。
赤黒く変した、ゼリー状の何か。
そして微かに放たれる、鉄のような異臭。
私は震える指先で、洗面台にあった綿棒を取りした。
それを掬い取ろうと、を伸ばした。
そのだった。
「お、そこで何をしてるんだ?」
背から、獄の底から響くような、氷のようにたい健の声がってきた。
私はビクッと肩を震わせ、振り返った。
洗面所の入りに、の切抜け落ちた無表の健がっていた。
そしてそのには、見慣れない黒い分いゴミ袋がぎゅっと握りしめられていたのだ。
背から響いた氷のようにたい声に、私は臓が鷲掴みにされたかのように体をねさせた。
からポロリと綿棒が滑り落ちる。
いタイルのに、乾いた音をてて転がった。
私は顔を引きつらせて彼を見げた。
「あ、えっと……」
私は必に言い訳を探す。
「これは、その……」
私が言葉を詰まらせていると、健はずかずかと洗面所に踏み込んできた。
彼のに握られた、のずっしりと詰まった黒い分いゴミ袋がガサガサと気な音をてている。
健の目は完全に据わっていた。
いつもの面の良い爽やかな営業部の面など微もない。
底なし沼のように暗く濁りきった凶悪な瞳が、私を見ろしている。
「俺が留守に誰が呂に入ったと聞いているんだと、さっき言ったよな」