"解雇された職人が未明に餡を練る" 第13話
自分ので考えて、自分ので荷物を届ける仕組みを作るのが、誇りだったんだ。それを……私の腰が悪くなっただの、親戚連が『息子のくせに親を見殺しにするのか』と話をかけてきただので……全部、引き裂いて戻ってきたんだよ」
息が詰まった。 昨夜、健太さんが譫言のように漏らした言葉が蘇る。
『豆の匂いなんて、嗅ぎたくもなかった』
「に入ってからの健太の目を見たかい? のようだったろう。佐野さんにをげて、言われた通りに餡をかき混ぜながら、ここにあらずで、いつられるかに怯えて……。あんな姿を見て、周を祝えるかい? あの子のを贄にしてまで守る簾なんて、うちにはないんだよ」
「……だから、藤子さんを?」
「ああ、そうさ」
子さんはく目を閉じた。
「佐野さんがいれば、は回ってしまう。どんなに健太が器用でも、佐野さんがろからを添えて、を調えて、帳尻をわせてしまう。そうすれば健太は、『自分さえすれば、はなんとかなる』と諦めて、もも、この暗い厨でんだようにきることになるんだ。……それを止めるには、支えを全部へし折るしかなかった」
ののピースが、恐ろしい速度で噛みっていく。
あの、勢の馴染み客と従業員のでされた、あまりにも条理で残酷な宣告。
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あれは、藤子さんを排除するためではなかった。 息子の逃げを、完全に奪いるためのものだったのだ。
「佐野さんには……話したんですか?」
「話したよ。あのの昼、きりでね」
子さんの声が、ふっと々しく沈んだ。
「最初は鳴られたさ。『あんた狂ったのか』ってね。でも、健太の企画を見せたら……佐野さん、そのに崩れ落ちて泣いたよ。『あの子に、こんな顔をさせてまで継がせるじゃない』って、で泣いたんだ」
『勢のじゃなきゃ、駄目だったのよ』
あのアパートで藤子さんが見せた、あの痛々しい涙の本当のが、ようやく胸に突き刺さった。
「……じゃあ、は結託して、あの茶番を演じたんですね」
私の震える声に、子さんは答えなかった。 ただ、静かに目を伏せるその仕が、何よりも雄弁に肯定していた。
「健太さんに、『自分には無理だ』と諦めさせるために。あの子自のから、『を継ぎたくない』と言わせるために……あんな酷いことをしたんですか」
「そうだよ。……だけど、見てごらん」
子さんは、机のの焦げた豆の塊を指さした。
「健太は、傷を負うまで鍋にしがみついた。腕の肉が爛れるまで、を張り続けたんだ。『嫌だ』の言が言えないばっかりに、あの子は自分の体を焼き尽くそうとしたんだよ……!」
子さんの瞳から、筋の涙が頬を伝って落ちた。
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その涙は、帳机のに置かれた売台帳の、周とかれた赤い文字のに、静かに染みを作った。
「私はね、母親失格だよ。息子の逃げを作ってやることもできず、あの子に傷を負わせて……。佐野さんのもを塗って、も信用も、全部おしまいだ」
その姿は、商の誰もが恐れ、敬っていた凛とした女将ではなかった。 ただの、息子のし方を決定に違えてしまった、疲れ果てたの老女だった。
「……奥様」
私は、エプロンのポケットにを突っ込んだ。 指先に触れたのは、今朝、厨のから拾いげておいた、もうつのものだった。 健太さんが昨夜、傷を負ったで握りしめようとしていた、作業順のかれた分いノート。
「私、佐野さんのところへってきます」
「……っても無駄だよ。あのはもう来ない」
「来てもらいます。このままじゃ、誰も救われない」
私はノートを抱え、帳をびした。
「美咲さん!」
背から子さんの呼び止める声が聞こえたが、私は振り返らなかった。 勝を蹴破るようにしてへると、自転にび乗った。
空はどんよりとした鉛に曇り、たいが私の頬を打ち始めた。 ペダルを狂ったように踏み込みながら、私ののには、昨夜の健太さんの絶叫と、今朝の子さんの涙が、激しく渦巻いていた。
が仕掛けた「残酷な劇」。 親孝という名の呪縛を解くために、で悪役を引き受け、を崩壊へと導いた母親と老職。