"妻を殴った外交官と2億円の空売り" 第21話
「謝罪のに、私へ役目を求めないでください」
子の顔が固まった。
美咲はたい声で続けた。
「直さんがでいることは、私の責任ではありません」
美咲は子を真っ直ぐに見た。
「お義母さんが寂しいことも、佐伯が苦しいことも、私が戻れば解決する問題ではないんです」
子はすがるように言った。
「でも、族だったでしょう?」
美咲は静かに首を振った。
「族だからこそ、何をしてもれないとわれていました」
美咲はちがった。
「私はもう、その族ではありません」
子は目を伏せた。
しばらくして、子はさく頷いた。
「そうね」
子は涙を拭った。
「最まで、自分の気持ちをあなたにしわ寄せしようとしていた」
子はちがり、くをげた。
「返事も許しもいりません。本当に、申し訳ありませんでした」
美咲はく答えた。
「分かりました」
許したとは言わなかった。
しかし、罵りもしなかった。
子がった、美咲はロビーの窓から、彼女がでタクシーへ乗る姿を見送った。
謝罪を受け入れることと、関係を戻すことは違う。
相の悔を理解することと、その悔を軽くしてあげることも違う。
美咲は以なら、子のった姿を見て、自分の決の固さを責めただろう。
今は違う。
のを尊しながら、自分の境界をしっかりと守ることができた。
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それもまた、彼女が取り戻した確かな力のつだった。
京での会議を終えた週末、美咲は実へ帰った。
父の誕を祝う約束は、遅れになっていた。
母は朝から煮物を作り、弟の優馬もの学院から帰国していた。
玄関をけると、母が駆け寄って美咲を抱きしめた。
「おかえり」
その言で、美咲の胸がくなった。
佐伯では、帰宅しても『遅い』『事は?』『直の予定は?』と用事から聞かれた。
何も求めずに迎える『おかえり』を、彼女はい忘れていた。
美咲は微笑んだ。
「ただいま」
卓には、美咲が子供の頃に好きだった料理がたくさん並んだ。
父は以よりし老けたが、顔はとても良かった。
精は経営を見事にて直し、従業員の雇用も守られた。
父が照れ臭そうに言った。
「会社の若い連が、おの報告を勉会で読んでいる」
美咲は驚いた。
「難しくない?」
父は笑った。
「難しい。だから読むんだそうだ」
父は真剣な顔になった。
「らないまま、また同じ目に遭わないために」
美咲はく頷いた。
痛みを経験したことにがあるとは、決して言いたくない。
傷つかずに済むなら、その方が絶対にいい。
ただ、起きてしまったことから、次に誰かを守る識を作ることはできる。
夜、族が眠った、美咲はで庭へた。
の終わりの空に、いが浮かんでいた。
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スマートフォンが震え、通のメールが届いた。
差は、国際関の共同研究者である裕斗だった。
美咲が本にいるに、以から興を持っていた美術館へかないかというい誘いだった。
は、美咲の過をすべてっている。
それでも、急いで距を縮めようとはしなかった。
会議で見が違えば、正面から堂々と議論した。
疲れているには、休んだ方がいいと慮なく言う。
美咲が断れば、理由を聞かずに『また今度』と返す。
その普通の尊が、最初は美咲にとって議だった。
とは、激しく求められることでも、活を保証されることでもない。
嫌だと言ったに、ちゃんと止まってくれること。
話しているに、最まで静かに聞いてくれること。
相の能性を、自分の都でさくしないこと。
美咲はし考えた、文字を打ち込んだ。
『午なら空いています』
すぐに返信が来た。
『ありがとう。と所は、さんの都にわせます』
美咲は画面を見て微笑んだ。
これは恋になるかもしれないし、ならないかもしれない。
どちらでもいい。
今の彼女は、誰かに選ばれなければ価値がないではない。
翌、美咲は母と緒に役所へき、戸籍謄本を受け取った。
しい戸籍には、『美咲』という名が記されている。
のの文字は、結婚と全く同じだった。
けれど、その名を持つは、以とは全く違う。
を信じることを恐れなくなったわけではない。