みかん小説
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"妻を殴った外交官と2億円の空売り" 第8話

そこに写る美咲は、濃紺のジャケットを着て、髪をすっきりとまとめている。

は柔らかいが、その目には確かな自信が宿っていた。

る美咲は、笑うでさえ常に周囲を気にしていた。

義母の嫌を損ねないか。

の同僚に失礼がないか。

料理のが濃すぎないか。

写真のの女性は、全く違った。

誰の許も求めず、自分の能力を完全にっている顔だった。

は尋ねた。

「着任は?」

黒川は即答した。

「来です。ただ、すでに事研修と研究チームの会議に参加しているようです」

は確認するように言った。

「つまり、美咲はをしたんじゃない」

黒川は静かに頷いた。

「はい。仕事に戻ったと考えるのが自然です」

黒川は言葉を選びながら続けた。

「奥様は、佐伯さんに養ってもらう必のある方ではありません」

黒川は直を真っ直ぐに見た。

「むしろ経歴だけを見れば、国際融の世界で独して評価される、流の専です」

黒川が帰った、直は執務になった。

計の秒針の音が、異様にきく聞こえる。

あの夜、自分が放った言葉が脳裏に蘇った。

『おは佐伯が助けた』

『弟の費用も俺がしている』

『俺と別れてどこへく?』

美咲は、から逃げて捨てられたのではなかった。

自分で扉をけ、本来の世界へ戻ったのだ。

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そして直は、彼女がしまい込んでいたな翼のすら、全くらなかった。

そのの夕方、母の子から話がかかってきた。

「直、今どこにいるの?」

子の声は、珍しく焦りが混じっていた。

「すぐへ戻りなさい」

はため息をついた。

「何があった?」

子は声を潜めて言った。

「美咲さん、国際通貨基で働くためにアメリカへったそうじゃない」

子は苛ちを隠せなかった。

務省の奥様方のでも、もう噂になっているのよ」

子は直を責めてた。

「あなた、どうして何もらないの?」

く答えた。

「今ったところだ」

子は切り声をげた。

「今った!?あなたの妻でしょう!」

子はでまくしてた。

く連れ戻しなさい。佐伯の嫁が勝で働いて、婚までにしているなんて」

子はりに震えていた。

「世に何と言われるとっているの」

は無言で窓のを見た。

京のビル群に、夕暮れのが落ちていく。

無数の窓が、つずつるく点灯し始めていた。

そのに、で暮らしたあのもある。

だが、というものは単なる建物ではない。

帰りを待つがいなくなった瞬、そこはただのきな箱になるのだ。

は、そのことをようやく理解し始めていた。

、直は省内の古い事記録や、過の国際会議の資料を徹底に調べた。

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美咲の旧姓を検索すると、像以の数の文が画面に現れた。

研究者の受賞者覧。

国際決済のワークショップ報告。

世界の政策ノート。

彼女の名は、直々扱っている専資料のに、何度も堂々と現れていた。

ただ、結婚していただけ、その記録がぷっつりと途切れている。

同僚の女性課が、直のパソコンの検索画面を見てち止まった。

美咲さんって、あなたの奥さんだったの?」

は驚いて振り返った。

っているのか?」

女性課く頷いた。

「国際局にいたなら、誰でもっているわ」

女性課くを見るような目をした。

「彼女、為替の異常を数字から見つけるのが抜群にかったのよ」

女性課は直を見た。

に残っていれば、今頃は事務所の幹部候補だったはずよ」

は喉が詰まり、言葉がなかった。

女性課議そうに首を傾げた。

「なぜ、結婚に辞めたんだろう?」

女性課は直の顔をじっと見た。

「それを、夫であるあなたが私に聞くの?」

責める調ではなかったからこそ、その言葉は直の胸にくのしかかった。

その夜、直棚を隅々まで調べた。

美咲が残した数冊の本には、付箋と細かなき込みがびっしりと並んでいた。

ページの余には、英語、フランス語、本語で専なメモがかれている。

複雑な数式の横には、直の予定や義母の通院までが几帳面にかれていた。

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