"妻を殴った外交官と2億円の空売り" 第7話
黒川は、航空券、ホテルの宿泊記録、クレジットカードの利用履歴、入国に関する公報など、法の範囲で確認できるものを淡々と積みげていった。
霞が関くのホテルラウンジで、は向かいった。
「佐伯さん、分かったことからお伝えします」
黒川は机のでいファイルをいた。
「奥様は、成田空港から既に国しています」
黒川は類を指差した。
「き先はワシントンDC。同者はいません」
黒川は次のページをめくった。
「本の携帯番号は解約済みです」
黒川は細を取りした。
「国内座からは、空港で万円を引きした以、きなきはありません」
直は信じられないという顔をした。
「万円だけ?」
「はい」
黒川は頷いた。
「奥様名義の預は相当額ありますが、ほとんどをつけていません」
直はく眉をひそめた。
美咲は逃げるように国したはずだ。
それなのに、活資をほとんど持ちしていない。
黒川は次の資料を直のに差しした。
「もうつ。奥様は半から、米国の就労続きをめていました」
黒川は直の目を見た。
「般な転職ではありません」
黒川は言葉を区切った。
「国際関の職員としての採用です」
直は言葉を失った。
「国際関……国際通貨基、級エコノミスト」
黒川は資料の文字を読みげた。
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「勤務はワシントン本部です」
直は、聞き返すことすらできなかった。
黒川は資料を机の央に置いた。
そこには、国際通貨基の公事報と、美咲の経歴が詳細にまとめられていた。
学経済学部を、首席にい成績で卒業。
本へ入し、国際局で国為替、国際融規制の分析を担当。
目で異例の派遣候補に選ばれ、世界の若研究者プログラムに参加。
国際融に関する論文を複数発表し、そのうち本は国際関の政策データベースに収録されている。
結婚直まで、財務省の研究会で専委員を務めていた。
直は震える声で尋ねた。
「これは、別じゃないのか?」
自分でも驚くほど、かすれた声だった。
「旧姓は。、学歴、顔写真、全て致しています」
黒川は線をげた。
「失礼ですが、ごなかったんですか?」
直はうつむいた。
「らなかった」
直が結婚にっていたのは、美咲が経済学を学び、経験があるということだけだった。
仲介した友は『のいい女性だ』と言ったが、直はく聞こうとしなかった。
結婚すれば、妻は庭をえるものだ。
交官の夫を支え、赴任先で無難に振るい、必なには笑って隣につ。
それが、直の求めた『妻』の理像だった。
美咲も、自分から職歴を語ろうとはしなかった。
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度だけ、結婚に元司から研究プロジェクトへの参加を打診されたことがある。
『週にだけ、の研究所へってもいい?』
夕、美咲は慮がちに直に聞いた。
直は資料から目をげずに答えた。
『今更働く必があるのか?』
直はたく言い放った。
『俺の赴任が決まれば、すぐ辞めることになる。途半端に始めて周りに迷惑をかけるな』
直はさらに言葉をねた。
『それに、オンラインでにいてくれた方が助かる』
直は最にこう付け加えた。
『に困っているわけじゃないだろう』
美咲は数秒黙り込み、やがて『分かった』と笑って見せた。
別の夜、直は彼女を国際融関係者のレセプションへ連れてった。
の役員が美咲の専攻を聞き、為替ヘッジについて見を求めた。
美咲が丁寧に説し始めたところで、直は笑って彼女の言葉を遮った。
『学でしかじっただけですよ。難しい話を振らないでください』
帰りのので、直はハンドルを握りながら言った。
『こういうで、ったかぶりはしない方がいい。交の世界は発言が歩きするからな』
美咲は窓のの景を見ながら、『そうね』とだけ答えた。
今になって、直はいらされた。
ったかぶりをしていたのは、直の方だったのだ。
彼女は、常に正しい答えを持っていた。
直が、それを聞こうとしなかっただけだ。
黒川は、最の枚のをした。
国際通貨基の職員紹介ページを印刷したものだった。