"地味な契約社員の妻が消えた日" 第8話
秘・麗奈の【詳細な作成履歴リスト】。
そこには、が自分の華やかな「功績」として社内アピールしていたすべての案件のオリジナルデータが、作成された正確な、私からの依頼メールのログ、そして細かな修正履歴とともに、完璧な証拠として並べられていた。
私は、彼女を直接に糾弾し、処罰を求めるような言葉は言もかなかった。 ただ、徹な「事実」のデータをそのままそこに置いただけだ。それで分すぎた。
が分いの層を突き抜け、夜空へと浮していく。 に広がる京の無数のが、みるみるうちにさく、頼りない点になっていく。 私はアイマスクを装着する直、スマートフォンの画面を最に瞥した。 未読の着信はない。メッセージの通もない。
ハガ・ハスはまだらない。 彼が「ぬわけじゃないなら仕事の邪魔をするな」と酷に切り捨てた経理部のな女・森川リノが、彼の会社からも、彼のからも、完全に消えったというその取り返しのつかない事実を。
翌朝、ハガグループの本社ビルは、いつものように規則正しくきしていた。 麗奈は、淡いベージュの級スーツにを包み、自信に満ちた取りで社へと入っていった。その両腕には、分い資料の束や、今のために綺麗にまとめた入札関連のドキュメントが抱えられていた。
広告
彼女は自分の仕事の成果に、絶対な自信を持っていた。 もっとも、その核をなしていたドイツ語の複雑な契約条項分析や、EUエネルギー法にかかる度なリスク理のデータは、2週に私がすべて完璧に作成し、彼女のメールへと送りつけていたものなのだが。
ハガ・ハスは広なデスクに座り、届いた資料に目を通していた。 はいつも通りの柔らかく甘い声で話しかける。 「社、午10からはドイツ側のパートナー企業とのなオンライン会議が予定されております。午は、法務部と財務部を交えて最終な資報の確認をいます」
ハガ・ハスはさく頷いたが、なぜかその表はどこかの空だった。 昨夜、青のマンションに戻った彼は、誰の気配もしない完全にえ切った部と、玄関の靴箱のにポツンと置かれたキーカードを目にしていた。その机のには、私がきでしたためたいが残されていた。 ――『もう、演じなくていいです』
彼はそれを見つめた、胸の奥底のどこかが妙にく沈むような奇妙な覚を覚えたけれど、すぐに自分のでそれを力ずくで打ち消した。 「森川リノは、どうせただを張っているだけだ。京には寄りの族も、頼れる友すらもいない。父の会社もすでに失っている。
広告
やがて活に困り、泣きながら戻ってくるはずだ」 彼はそう自分に言い聞かせていた。
午920分。 事部が、青ざめた表で慌ただしく社のドアをノックした。彼の顔は、ひどく複雑で、何か変な災難を予させるものだった。
「社……変なご報告がございます。秘の麗奈ではなく、経理部の森川リノさんから……正式な退職願いがメールで届いております」
ハガ・ハスのペンを持つ指が、ピタリと止まった。 が、あざ笑うかのように先にをいた。 「森川さん? あの翻訳担当の契約社員の? 急にやめるなんて……よっぽど毎のな仕事に疲れてしまったのかしらねえ」
事部は、や汗を拭いながらさらに1枚の資料を差しした。 「退職願いだけではありません……。彼女の過2における【全業務の成果覧】と、完璧な引き継ぎ資料が添付されているのです」
麗奈の美しい顔から、血の気が瞬ですべて引いていった。 ハガ・ハスは、差しされた資料の束を自分ので掴み取った。
1ページ目は、淡々とした文面でかれた退職願い。 2ページ目以には、目を疑うほどに密集したプロジェクトの膨な覧が記載されていた。 『広州再エネルギー提携案件』、『ドイツ・ライン方の法務リスク評価』、『スイス子会社の財務監査翻訳』、『本のドイツ入札案件』……。
それぞれの項目には、私が実際に担当し、裏で構築した詳細な内容が正確に記されていた。