"8年前の罠と、氷点下の泥まみれ" 第12話
両親は度なる借取りの脅迫と過酷なストレスに耐えかね、病に倒れるようにして相次いでくなっていた。兄弟姉妹ももおらず、頼れる親戚の姿も周囲には切なかった。
佐藤みさきは完全な「涯孤独」のだった。
それでも、彼女は悩んだ末に「産む」という決断をした。
この子だけは、何があっても自分ので絶対に守り抜くとに誓った。なぜなら、この子はしてやまなかった夫・藤健の子供だったからだ。かつてからした男の血を引く、たったつの確かな証だったからだ。
みさきは歯をいしばり、過酷な運命にち向かった。
お腹がきくなっていく妊娠のでありながら、のさな堂の皿洗いや雑用を掛け持ちした。お腹が張って腰が千切れそうになっても、がむくんで歩くのがやっとになっても、彼女はたりとも仕事を休まなかった。すべては、お腹の子供を無事にこの世に迎えるためだった。
そして、産当を迎えた。
陣痛の激痛に耐えかね、彼女はうようにして病院へと駆け込んだ。しかし、貯などほとんどなかったため、個やい護など望むべくもなく、病院ので番価な部の隅のベッドを使わせてもらった。
たったで、誰の付き添いも保護者もいないまま、彼女はその子供を命がけで産み落とした。
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赤ん坊が産声をげた瞬、病のベッドので、みさきは声をげて泣いた。
それが歓の涙なのか、これからの過酷なに対する絶望の涙なのか、自分でも区別がつかなかった。しかし、産まれたばかりの赤ん坊のさな顔を見た瞬、これまでのすべての苦痛と獄のような々が、解けのように瞬で消えるような気がした。
のひらに収まるほどさく赤い顔。自分の拳ほどのきさしかないさな。すやすやと穏やかに眠るその無垢な寝顔。
みさきはが子を胸にしっかりと抱きしめ、名を授けた。
――「優太」。
藤の「優」の字を取り、そして父親のように優しく健やかに育ってほしいという願いを込めて、「優太」と名付けた。
いつのか、この成した子供を本当の父親である健のに連れてき、「あなたの子供ですよ」と会わせてあげたかった。そんなが訪れることなど奇跡にいと分かっていながらも、彼女はの片隅でその希望を度たりとも捨てたことはなかった。
しかし、現実はあまりにも残酷だった。
優太が歳を迎えた頃から、子供の体に異変が現れ始めた。
原因の激しい血が頻繁にるようになった。体のあちこちに理由のわからないきなアザが次々とできた。常に微が続き、いつもぐったりとして元気がなかった。
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に駆られてくの総病院に連れてくと、医師は青ざめた刻な表で彼女に告げた。
「お母さん……すぐにでも、血液の精密検査をする必があります」
そして、突きつけられた診断結果は、あまりにも残酷なの宣告だった。
――「急性血病」。
医師のその酷な言葉が、みさきのの奥で何度も何度も轟いた。
「刻もく、専な度治療を始めなければ遅れになります……! がありません……!」
みさきは、その診察のに崩れ落ちるようにして泣き崩れた。
(なぜ……なぜよりによって、私のいが子がこんな病気に……! 体、神様は私にどこまでの獄を見せたら気が済むというの……!)
世界を呪い、神をみ、自分の運命をの底から呪った。
しかし、いつまでも絶望に浸っている暇など秒たりとも残されていなかった。
優太の命を救うためには、莫な治療費が必だった。先医療や期入院を含めれば、数千万円単位の途方もないがかかると言われた。
佐藤みさきに、そんなを用できるはずがなかった。
それでも、彼女にできることはすべてやった。昼はの堂で朝から晩まで働き、夜はコンビニの夜シフトで働いた。それでもなお、治療費にはく及ばなかった。
追い詰められた彼女が最にき着いたのが、あの危険と隣りわせの「建設現の肉体労働」
だった。
女の細腕でレンガやセメント袋を背負うなど、屈な男たちすら音をげるほどの過酷な労働だった。