"8年前の罠と、氷点下の泥まみれ" 第5話
佐藤みさきの唇が、刻みに震えた。しかし、彼女は切の弁をにしようとはしなかった。ただ、健の元に置かれたい背負子と、自の疲弊した体をしそうに見ろした。
健はできなくなり、彼女の細い腕を荒々しく掴み取った。
「答えろ! 体どういうことだ、説しろ!」
「……してください。佐藤みさきは震える声で言った。私……仕事をしなければならないんです。この現の親方から払いの料をすでにいただいているので……今、このノルマをやり遂げないとダメなんです……」
「払いだと……?」
健はの底から呆れ返った。
「払いなんかが体何のを持つ! 今、おのその格好がどうなっているか分かっているのか!? 財閥会の『元妻』が、うちの会社の事現でにまみれてレンガを運んでいるんだぞ……!」
佐藤みさきは、健のガッチリとしたを自分の腕から力任せに振り払った。
「元妻でしょう……? 今の私は、あなたにとってただのです」
「だと……!?」
健の目が、りと侮蔑で再び激しく燃えがった。
「ああ、そうだな、だな! おが自ら倫をして、勝にになっててったんだろうが!」
佐藤みさきの顔面が、のように真っに青ざめた。彼女は唇をキッと噛みしめ、何かを懸命にみ込もうとした。
何かを言い返そうとしながらも、結局はそれを諦めた。
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彼女は再びく、くをげた。
「……どうぞ、お好きなように信じてください。あなたが信じたいように……そうっていてくだされば、それで結構です」
佐藤みさきは、再びい製の背負子を自分の肩へと担ぎげた。
(収束:階の吹き抜ける気の、背負子を担いだみさきが再び階段をりようとする。/过渡:健は圧倒な虚無と苛ちを抱えながら、その背を見送り、田署へとりをぶつけるために層へ戻る。)
い荷物の量に、彼女の華奢な肩がグッと痛々しく押しげられた。
そして、彼女は再び危険な取りで階段をり始めた。段、また段と、命がけのような危なっかしい取りだった。
藤健は、その痛ましいろ姿をじっと見つめたまま、そのからけなかった。胸の奥が締め付けられるように苦しかった。激しい腹たしさを覚えると同に、何かが根本から狂っているという気な違が、をく蝕んでいた。
「……体、何をしているんだあの女は……!」
健は階へ急ぐと、すぐくで怯えてっていた田署に向かって鳴りつけた。
「おい! なぜ、財閥会の元妻が、俺の会社の現でこんな過酷な肉体労働をしているんだ!」
田署は底驚いたように目を剥き、ひっくり返りそうな声をげた。
「へっ……? か、会の……元奥様でいらっしゃるのですか……? あの、いつも真面目に働く鈴のおばさんが……?」
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「そうだ! 戸籍の名字が違うからといって、偽名を使って潜り込ませていたのか!」
「そ、そんな……私どもは全くじげず……!」
「あの女を、今すぐこの現から追いせ!」
健は声を荒らげた。
「俺の会社が管理する現で、元妻にこんな労働をさせておくわけにはいかないんだ! すぐにクビにしろ!」
田署は慌てて々とをげた。
「し、承いたしました……ただちに処分を……!」
藤健は署を置きりにし、そのまま背を向けて階段を気に駆けりていった。
取りは先ほどよりもずっとかった。
――ドスン、ドスン、ドスン。
い革靴の音が、コンクリートの階段にうるさく響き渡った。
腹がった。そして何より、猛烈に恥ずかしかった。自分の「元妻」が、自分の会社の事現で肉体労働の底辺を支えているなどと、世のがったら体どう笑うだろうか。
『建設会社の会が、元妻にホームレスのような労働をさせている』 『慰謝料をびた文払わず、酷にから放りした張本だ』
そんな悪質な噂が世に広まれば、会社のブランドイメージや株価は瞬でに落ち、打撃を受けるに違いない。健は奥歯が砕けるほどく歯をいしばった。
(わざわざ、俺に見せつけるために来やがったんだ……!)
健の歪んだ考は、最悪の方向へと加速していった。
(わざわざ俺の会社の現を選んで潜り込み、あんなにみすぼらしい格好でかわいそうなふりをしているんだ。