"「貧乏男」の通帳に5億円" 第15話
5億円より、帰る所
奈々さんが選んだ部は、職まで歩いて通える所にあった。勤務先や収入の類を自分で揃え、保証会社の審査も受けたという。私は取りを見せてもらい、窓の横に置くという机の話を聞いた。
「お世話になったのに、ていくって言いづらくて」
蓮さんは契約を彼女へ返した。
「みたいところが見つかったなら、よかったです」
文さんも、引っ越すに鍵の返し方を相談しましょうと言った。引き留めるはいなかった。奈々さんは肩の力を抜き、今度は引っ越しの箱がりるかという話を始めた。
コーポ川の修繕は終わっていた。のあとに廊へ並んでいたバケツはなくなり、台所のの方もよくなったと、文さんが教えてくれた。会社は毎、予定どおりに借入を返している。
私は週末の半、森さんと入や支払いを確かめた。修繕の準備を取り分け、空いた部の分も収支に反映する。計画と違う数字がたは、隠さずに理由をいておく。それを蓮さんが読み、必な判断をするようになっていた。
この1で、別の管理物件にも支援に使える部が2つ増えた。との話しいや準備にはがかかったが、鍵を渡したあとに連絡を受けるまで決めてから、募集を始めた。
私は斗印刷で働き続けている。
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忙しい週には事務所へ寄らず、友達との約束も、休みたいもある。森さんから来る連絡には、私に相談したい部分と、会社で対応済みの部分が分けてかれていた。
奈々さんの引っ越しの、19歳になった美優さんが、仕事を終えて伝いに来た。品会社の名が入った袋には、休憩に買ったみ物が入っていた。
「今は、私が運べます」
軽い箱を持ちげる彼女を見て、蓮さんは任せますと答えた。美優さんは仕事にも慣れ、朝の勤にわせて起きる活を続けていた。
片づけのあと、彼女の部でお茶をもらった。淡い黄のカーテンのに、さなテーブルがある。引きしから茶菓子をす、見覚えのある封筒がのぞいた。
「これ、まだ使わせてもらっています。に急な費があった、本当に助かりました」
美優さんはそう言って、し照れた。私は、役にってよかったと答えた。残りがいくらか、何に使ったかまでは聞かなかった。
「あの、帰ってきてよかったです」
窓ので、さんが運搬用の台を畳んでいた。美優さんは彼にもお茶を入れようと、もう1つカップをした。初めて鍵を受け取ったより、つきがずっと落ち着いていた。
夕方、蓮さんは当番の社員に確認を済ませ、先に帰って夕飯を作ると言った。私は奈々さんを見送ってから帰ることにした。
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夫は緑の着を羽織り、今は魚を焼こうとうと、買い物袋を持ってていった。
あの5億円を超える預は、今も取り崩していない。けれど、会社の借入や美優さんの部について引き受けた責任が、消えたわけでもない。私たちは定期に類をき、何を守るために、どこまで負担しているかを確かめていた。
初めて通帳を見た朝、私は数字の桁を数えることしかできなかった。今は、残の隣に置く計簿も、会社の返済表も、それぞれ違う役割のものとして見られる。
奈々さんが文さんに鍵を返した。空いた部へを通す、美優さんが玄関のに残ったさなくずを拾った。私は皆に挨拶をし、商を通ってへ向かった。
賃6万2000円の部は、と同じ所にある。しい鍋が増え、玄関には夫が自分で選んだ靴が揃っていた。押し入れには古い紺の着も、きちんとしまってある。
鍵をけると、魚の焼ける匂いがした。台所では蓮さんが皿を並べ、私の湯呑みにお茶を注いでいた。
「ただいま」
私が言うと、夫はを止めて振り向いた。
「おかえり」