"昭和31年、給料日に消える父の秘密" 第10話
族には配させない。
それが正しい父親の姿だと信じていた。
けれど、族が本当に欲しかったものは、毎同じさの封筒ではなかった。
「今はりない」
そう言ってくれること。
「会社が危ない」
そうらせてくれること。
「どうしたらいいとう」
そう緒に考えさせてくれること。
そして何より、
で普通のふりをしないことだった。
あの、母は米櫃の底から銭をした。
恵美は菓子缶の貯を差しした。
浩司は数円しか入っていない貯箱を抱えてきた。
族4分をわせても、父が売った計ほどの額にはならなかったかもしれない。
それでも、あの夜を境に川からつだけなくなったものがある。
誰かだけが、
「自分が何とかしなければ」
とい込むことだった。
恵美はになってからも、父のあの頃のことを何度もいした。
結婚活でおに困った。
夫の仕事がうまくいかなかった。
子どもの学費用が予以にかかった。
そのたび、黒い万を見た。
父が結婚祝いにくれた、古の万。
そして夫へ言った。
「今、ちょっとりないみたい」
最初はその言をにするだけでも勇気が必だった。
けれど夫は、
「じゃあどうするか考えよう」
と答えた。
それを聞くたび、恵美は母の声をいした。
《これが緒に暮らすってことよ》
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昭31。
料が現で支払われる庭では、父親が持ち帰る茶い封筒のさが、そのままのだった。
料が減った。
支払いが遅れた。
会社が危ない。
そうした事を族へ言えない父親も、きっとなくなかった。
を養う責任。
男が音を吐くことへの抵抗。
そして、料袋を妻へ渡すだけは「いつも通り」でいたいという。
正も、そのだった。
けれど彼が最まで売らなかった具箱は、その何も族のそばに残った。
退職したも、正はその具を使っていた。
壊れた子を直す。
孫の自転を修理する。
戸棚の蝶番を替える。
何かが壊れると、誰かが言う。
「おじいちゃん、直せる?」
正は決まって、
「見せてみろ」
と答えた。
その具箱を見るたび、恵美はった。
もしあの5の夜、父がこれまで古物へ持っていっていたら。
父はもしかすると、そのもずっと、
「丈夫だ」
「何でもない」
「俺が何とかする」
と言い続けていたかもしれない。
けれど具箱を囲んで、母が銭をし、子どもたちが貯を差しした。
そこで初めて父はったのだ。
族を守るというのは、
族に何も見せないことではない。
自分の苦しさを隠して、笑って料袋を渡すことでもない。
恥ずかしくても、
けなくても、
「りない」
と言って帰れる所を持つこと。
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そして、それを聞いた族が、
「じゃあどうする?」
と緒にちゃぶ台を囲んでくれること。
それこそが、
父が何より守りたかったはずのだった。
正の退職祝いが終わった夜。
皆が帰ったあと、文子は器を洗い、正はいつもの席で聞を広げていた。
60歳になっても、そこだけは昔と変わらない。
「あなた」
「何だ」
「今のお祝い、しお使いすぎたわ」
正は聞から目をげた。
「りないのか」
「今、しね」
昔なら、その言を聞いた正は黙って何か売れる物を探したかもしれない。
けれど今の彼は違った。
聞を畳み、
「じゃあ来までどうするか考えるか」
と言った。
文子は笑った。
「そうね」
正も笑った。
そして何もと同じように、ちゃぶ台のへ湯呑みを置いた。
茶い料袋は、もうどこにもなかった。
それでも川には、あの頃よりずっと確かなものが残っていた。
りないには、
りないと言っていい。
困ったには、
困ったと言っていい。
族とは、
だけが派でいる所ではない。
皆でしずつりなくても、
それでも同じへ帰ってこられる所なのだ。
そして恵美はになって気づいた。
昭31、父が毎料にだけ遅く帰ってきた理由。
それは父が族かられていたからではなかった。
むしろ、
族を守ろうとして、
だけ族のへてしまっていたからだった。
あの夜、母がそれを引き戻した。
「で普通のふりをしないで」
その言で。
それから父は、
料袋がいも、
仕事を失ったも、
しい会社で初めて料をもらったも、
へ帰ってきた。
隠さずに。
りないままで。
そしていつも最には、
玄関をけて同じ言葉を言った。
「ただいま」
それに族が、
「お帰り」
と答えられること。
結局、川にとって番切だったのは、
料袋のさではなく、
そのやり取りが毎変わらず続くことだった。
※昭30代の現による与支、町の資繰り、古物商・質などを通じた計のやりくり、当の族観や活事を背景にした創作です。