"退職金と三百万円の借金" 第18話
佐野だった。
彼は向けのを抱えたまま、私と目がうと、々と、直でをげた。づいてくることはせず、ただくから、私の邪魔をしないように佇んでいる。
私はちがり、コートの埃を払った。
佐野の元へ歩み寄ると、彼は恐縮したように肩をすぼめた。
「……林さん。お邪魔してすみません。どうしても、男さんに……ご報告がしたくて」
「いいのよ。男さんもんでいるわ」
私は佐野の抱えた束を見た。彼が男の好きだったリンドウのを選んでいることに気づき、胸の奥がしだけ温かくなった。
「佐野君」
「はい」
「百万円、変ね。これから何も、返済が続くんでしょう」
佐野はしっかりと顔をげた。その瞳には、かつての頼りなさはなく、自分のでを引き受ける覚悟が宿っていた。
「はい。でも、ちっとも辛くありません。この、嘘をついてビクビクきていた毎に比べたら……自分の働いたおで、堂々と返していける今のほうが、ずっと息がしやすいです」
「そう」
私はさく微笑んだ。
「胸を張って、働きなさい。男さんが命がけで守ったあなたのなんだから、粗末にしちゃ駄目よ」
「……はい! ありがとうございます!」
佐野の目から溢れた涙が、のを浴びてった。
私は彼に背を向け、霊園の緩やかな坂をり始めた。
もう、品の制を着ることはない。
からは、何に起きてもいい。どこへってもいい。
誰のにも怯えず、誰の施しにも縋らず、林静枝という自分の名で、自分ので歩いていく。
坂のには、穏やかなの並みがどこまでも広がっていた。