"息子の捜索地図を消す男" 第19話
くから、ごうごうとく唸るような音が響いていた。 流の放に備えて、の位がわずかにがり始めているのだ。
「くぞ」
野寺さんは懐灯を点け、運転席のドアをけた。
にると、ぬるいとともに、ヘドロと腐ったの匂いがを突いた。 はりになっていたが、元の赤はひどくぬかるんでおり、靴がなければを取られそうだった。
野寺さんは無言で先を歩いた。 懐灯の丸いが、錆びたフェンスの破れ目を照らしす。 そこを潜り抜けると、ポンプの裏にた。 面に、斜めに傾いた鉄のハッチがあった。
の腰ほどのきさの、な鉄扉。 頑丈な京錠が掛けられ、鎖が何にも巻き付けられていた。
「ここだ」
野寺さんが鍵を差し込み、回した。 カチリ、とい音がして、錆びた錠がれる。
「悠!」
私は野寺を押しのけるようにして、鉄のハッチを両で引きげた。 軋んだ蝶番が鳴をげ、からたく湿った、カビの臭気が吹きがってきた。
懐灯のをに落とす。 垂直に伸びる鉄のタラップの先に、畳半ほどのコンクリートの部が見えた。 壁面にはを測るための赤との目盛りが引かれ、には数センチほど、濁ったが溜まっている。
部の隅。 積みげられた濡れた毛布の塊が、を浴びて微かにいた。
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「……悠!?」
「……おか、あさん……?」
掠れた、蚊の鳴くような声が返ってきた。
私の目から、堰を切ったように涙が溢れした。 の震えも忘れ、私はだらけのタラップを気に滑りりた。 濡れたに着し、沫をげながら毛布へと駆け寄る。
「悠! 悠!」
毛布を剥ぎ取ると、そこに息子がいた。 だらけの体操のに、サイズのわない用のジャンパーを着せられ、膝を抱えてさく丸まっていた。 元には、散乱したゼリーの空容器と、齧りかけの乾パンが転がっている。
抱きげた悠の体は、のようにかった。
「お母さん……お母さん……っ」
悠は私の首にしがみつき、い涙を私の鎖骨のあたりに落とした。 その体は刻みに震え、唇は脱のためにに変していた。
「ごめんね、遅くなってごめんね……もう丈夫よ、お母さんが来たからね……!」
「真っ暗で……怖かった……元から、の音がして……僕、おじいちゃんの言うこと聞いたよ……にたら、られるとって……」
に浮かされた息子の胸元には、あの持っていったはずの、プラスチックのトイカメラがしっかりと抱え込まれていた。 レンズにはがついていたが、ストラップは固くさな指に巻き付けられたままだった。
あの子は、この暗ので、恐怖に耐えながら、たったでを過ごしていたのだ。
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寒さとと、いつ迫ってくるかもわからないの恐怖に怯えながら。
私は悠をく抱きしめ、毛布ごと抱えげた。
タラップを見げると、ハッチの縁に、野寺修がち尽くしていた。 懐灯のが、から彼の顔を逆で照らしている。 その顔には、もう何の威厳も残っていなかった。 ただ、にまみれた作業着を着た、れな老が、肩を落としてっているだけだった。
「……悠くんは、無事か」
掠れた声がってきた。
私は息子を片腕で支えながら、もう片方のでタラップの鉄棒を握りしめた。 そして、徹な目で老を見据えた。
「どいて」
「遥さん……」
「どきなさい!」
私の気迫に圧されたのか、野寺さんはよろめくように歩ずさりした。 私は悠を抱きかかえ、渾の力でタラップをよじ登り、のたい空気のへといた。
がりの夜空には、の切れから青いが覗いていた。 ぬかるんだ面のにち、私は荒い息をえた。
野寺さんは、ポンプのコンクリート壁に背を凭れかけ、ずるずるとそのに座り込んでいた。 から落ちた懐灯が、むらを虚しく照らしている。
「……警察へ、くんだろう」
彼は力なく呟いた。
「ええ」
私はポケットからスマートフォンを取りした。 濡れた画面を操作し、今度こそ迷うことなく、発信ボタンを押した。
「110番」のコール音が、夜の静寂を切り裂いて鳴り響く。
『はい、警察です。