"息子の捜索地図を消す男" 第9話
野寺さんのに、の孫が同居していることなど、度も聞いたことがなかった。 私が越してきてからの、野寺さんのから族の話題がたことはほとんどなかったのだ。
「拓くん、優秀な子なのよ。県の学に通っててね、真面目で、グレることもなくって。会の自の種なの」
渡辺さんは声をし潜め、困ったように眉をげた。
「でもね、その拓くんが、曜の夕方からひどいをして寝込んじゃってるらしいのよ。インフルエンザかもしれないって。会、夜は奥さんのの世話をして、孫の病もして、昼は悠くんの捜索の指揮を執ってるの。倒れちゃわないか、みんなで配してるのよ」
曜の、夕方。
悠が消えた、まさにそのの夕方だ。
ので、バラバラだったピースが、気な音をてて噛みっていく。
曜の午半、旧堤のポンプの横にいた悠。 その直から「をして寝込んでいる」学の孫。 野寺さんが隠し持っていた、子ども向けのゼリーと、消毒液と、包帯。 そして、絶対にをづけようとしない、旧堤のち入り禁止区域。
なぜ、野寺さんは孫の病気を公にせず、ひとりで隠すように病しているのか。 なぜ、あの軽トラックに、怪の当てをするような医療品と、さな子どもが好むべ物があるのか。
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まさか。
息が止まりそうになった。 臓が激しく肋骨を打ち、界が歪む。
悠は、んでいない。 誰かに連れられて、どこかに――。
「……渡辺さん」
私は乾いた唇をいた。
「野寺さんのお宅に、このおにぎり、届けてあげた方がいいんじゃないでしょうか。お孫さんも寝込んでいらっしゃるなら、朝ごはんも作れていないんじゃ……」
「あら、そうねえ。でも会、にに入られるのを嫌がるからね。奥さんの介護ベッドもあるし、気を使わせちゃうんじゃないかしら」
「私、持っていきます」
私は渡辺さんの持っていたタッパーを、奪うようにして受け取った。
「会へのご恩返しです。玄関先に置くだけでいいですから。ついでに、濡れたボランティアの腕章も洗って届ける約束をしていたんです」
渡辺さんはし驚いたように目を瞬かせたが、私の真剣な表に気圧されたのか、やがて優しく微笑んだ。
「そう? じゃあ、お願いしようかしら。会のは、ここからへ本入った筋の、扉にきな松のがあるお敷よ。玄関のチャイムを鳴らして、返事がなかったら勝にでも置いておいてあげて」
「はい。ってきます」
私はタッパーを抱え、で公民館を抜けした。
野寺さんは今、のガードへ向かう先両に乗り込もうとしている。 彼が現から戻るまで、なくともはかかるはずだ。
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今しかない。 あのへけば、何かがわかる。
◇
野寺修の自宅は、町の旧沿いにあった。
いブロック塀に囲まれた、な本だった。 入れのき届いた庭には派な黒松が植えられ、柱には「野寺」と彫られた御の表札が掲げられている。 がりの湿気ので、古い瓦根が黒くっていた。
扉は閉ざされていたが、鍵はかかっていなかった。 私は鉄の格子を静かに押しけ、びを踏んで玄関へとんだ。
のからは何の物音もしない。 戸は半分閉ざされ、まるでがんでいないかのような鬱な気配が漂っていた。
私は呼吸をひとつし、インターホンのボタンを押した。
ピンポーン、とく乾いた子音が内に響く。
返事はない。 が吹き抜け、濡れた松の葉から滴がぽたぽたと音をてて落ちた。
もう度、ボタンを押す。
やはり、応答はない。 渡辺さんの言う通り、寝込んでいる孫は起きがれないのかもしれない。 あるいは、本当に誰もいないのか。
私は玄関の引き戸の取っにをかけた。 どうせ鍵がかかっているだろう――そういながら、わずかに力を込める。
カチリ、とさな属音がして、引き戸が数センチ、滑るようにいた。
鍵は、かかっていなかった。
「……ごめん、ください」
私は隙に向かって、さく声をかけた。
返事の代わりに返ってきたのは、古い特の、線とカビの混ざったたい空気だった。