"義母が遺した二十年の通帳" 第18話
もし私がこの百万を持って逃げしたら、お義母さんはどうなるだろう、と」
リビングに、たい静寂が落ちた。
「あなたたちは違いなく、お義母さんを番い劣悪な施設に放り込み、見いにもかず、だけを巻きげて放置したはずです。自分をとして扱ってくれた、世界でたったの方を、そんな目に遭わせて逃げすことなんて、私にはできませんでした」
私は歩、浩にづいた。
「だから私は、このおにをつけませんでした。お義母さんが私をとして守ってくれたように、私も最まで、お義母さんの尊厳を守り抜こうと決めたんです。お義母さんが息を引き取るその瞬まで、清潔なシーツで、温かい料理をべさせ、名を呼んで抱きしめ続けること。それが、このの万円に対する、私の唯の恩返しでした」
私はきく、く息を吸い込んだ。
「そしてヶ、お義母さんはらかに旅たれました。も過ぎ、百箇法も無事に終わりました。……浩さん。私がこのに留まる理由は、もう何つ、どこにも残っていないんです」
「由美……」
浩の顔から、完全に傲の仮面が剥がれ落ちていた。 そこにあるのは、自分を支えていたが音をてて崩落していくのをにした、れなの男の怯えだけだった。
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「待ってくれ……由美、待ってくれよ!」
浩は膝ちのまま、私の元にすがりついてきた。 なりふり構わず、私のスラックスの裾を両でく握りしめる。
「悪かった! 俺が悪かったよ! 俺が調子に乗ってた! 『各自でやろう』なんて言ったのは、おのありがたみを試そうとしただけで……本気じゃなかったんだ! 頼むから、考え直してくれ!」
男の醜い涙が、私の靴のにポタポタと落ちた。
「俺、料理も覚えるから! ゴミしだって、これからはちゃんと分別して俺がやる! 活費だって、もっと渡すよ! ボーナスもおに全部預けるから! だから……だからてかないでくれ! おがいなくなったら、このはどうなるんだよ! 俺たちの活はどうなっちまうんだよ!」
その必の願を聞きながら、私は徹なまでにめたで夫を見つめていた。
このは、今この瞬に至っても、私の痛みを理解していない。 彼が恐れているのは、私が耐え忍んできた絶望でも、傷ついた私のでもない。 ただ単に、「毎朝温かい飯がてきて、が勝に洗われ、ゴミが消え、費の管理をしてくれる無料の政婦」を失うことの恐怖。 それだけなのだ。
すべては、どこまでも自分自のため。 と、何つ変わっていない。
「浩さん」
私は静かにをかがめ、浩の張った指を本ずつ、丁寧に、だが切の力を許さずに私の裾から剥がしていった。
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「私のは、あなたの事代サービスではありません」
「由美……!」
私はちがり、エプロンのポケットから、あらかじめつ折りにしていた枚の緑のを取りした。 役所の窓で、先週ひっそりとに入れてきたものだ。
テーブルの央、あの計簿のの番に、それを静かに置いた。
『婚届』
すでに側の妻の欄には、私の旧姓、、本籍が、几帳面な黒いインクで記入され、私の実印が鮮に押されていた。
「これに、サインと捺印をお願いします」
「り、婚届……?! 本気なのか……本気で言ってるのか?!」
「本気です。財産分与は請求しません。このの名義も、預貯も、あなたの退職も、円もいりません。私には、お義母さんが遺してくださった百万円があります。それだけで、私のこれからのには分です」
「ふざけるな!」
浩が叫んだが、その声にはもう何の力も残っていなかった。
「認めないぞ……! 俺は絶対にサインしない! も連れ添ったんだぞ! こんな切れ枚で、ハイそうですかと別れられるわけがないだろうが!」
「サインを拒否なさるなら、裁判を起こします」
私は淡々と告げた。
「芳叔母さんが紹介してくださった弁護士の先が、すでに準備をえて待っていらっしゃいます。の計簿、あなたが活費を分に渡さず、暴言を吐き、暴力を振るってきた記録、そしてお義母さんの公正証遺言。