"義母が遺した二十年の通帳" 第5話
「壊れていませんよ」
「はあ?! 現にお湯がないだろうが!」
「ガスが止められたんです」
「……あ?」
浩が呆然とした顔でリビングに戻ってきた。
「ガスが止められた? なんでだ? ガス代なんか、座から勝に引き落とされてるはずだろ!」
「引き落とされていません」
私はテーブルの隅、郵便物が乱雑に積みげられていたトレイを指差した。
「以は、お義母さんの座から費が引き落とされていました。でも、お義母さんがくなられて座が凍結されたでしょう? だから先から、ガスも気もの請求払いに切り替わっていたんです」
「な……」
「先週から、赤いの『最終警告』が届いていましたよ。玄関のトレイに置いておきました。浩さん、毎そのを通っていたはずです」
浩は弾かれたように玄関へり、トレイのをひっくり返した。 のようなチラシの底から、赤い帯の入った封筒が見つかった。 そこには、はっきりと『ガス供止予告・本』と印字されていた。
「な、なんで払っておかないんだ! お、これに気づいてただろ!」
浩が封筒を握りしめ、目を血らせて戻ってきた。
「気づいていましたよ」
「気づいてたなら、コンビニで払ってくればいいだろうが! たかが数千円のことだろ!」
「私の名義の請求ではありません。浩さん名義です。それに、活費は各自で清算すると決めたはずです。
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私がて替えて払う理由はありません」
「お……がおかしいのか?! 今はこんなに寒いんだぞ! 飯も作れない、呂にも入れない! 凍えねって言うのか!」
浩の声に引き寄せられるように、階からと真奈もりてきた。
「ちょっと、なんでつかないの?! 寒くて部にいられないんだけど!」 「父さん、ガス止まったってマジ?! 俺、これから呂入ってかける予定なんだけど!」
の子供も、寒さと便さに耐えかねて私に詰め寄ってきた。
「お母さん、あんまりだよ! いくらなんでも悪すぎる!」 「そうだよ、族なんだから、これくらい払っておいてくれたっていいじゃん! 最だよ!」
族。 その言葉が、彼らのからた瞬、私の胸の奥で何かが静かに、だが完全にえ切った。
都のいいだけ「族」という言葉を盾にし、 面倒なこと、汚いこと、のかかることはすべて私に押し付け、 自分たちは歩もを踏もうとしない。
義母が認症を患い、夜に徘徊し、廊を汚したあのの夜。 彼らは誰として部からてこなかった。 「汚い」「臭い」とをつまみ、私に雑巾を持たせてたいを拭かせた。 あの、彼らは義母を「族」として扱っただろうか。 そして今、私を「族」として見ているだろうか。
「だ……」
浩がさく呟いた。
「今すぐコンビニにって払えば、栓してくれるはずだ。
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おい、活費の予備のはどこだ! おが管理してた計のヘソクリがあるだろ! どこに隠した!」
「ありません」
「嘘をつくな! も主婦をやってて、予備の現が円もないわけがないだろうが!」
浩は完全に正気を失っていた。 私の言葉を無し、ドカドカと音を荒てて、私の寝へと向かった。
「おい、やめなさい!」
私が初めて声を荒らげてを追ったが、浩は聞くを持たなかった。 私のクローゼットの扉を乱暴にけ放ち、引きしを次々と引っ張りした。 畳んであった私のが、無残にへぶちまけられていく。
「どこだ! どこに隠した! 親父の遺産も、お袋のも、おがちょろまかして貯め込んでたんだろ!」
「やめて! の部を勝に荒らさないで!」
「うるさい! 俺のだ! 俺がどこを探そうと勝だろうが!」
浩はクローゼットの最段、用の毛布の奥へとを突っ込んだ。 ガサリ、と何かが引きずりされた。
それは、くにどこかのデパートで買った、古びたクッキーのブリキ缶だった。 表面の絵柄はほとんど剥げ落ち、角がし錆びついている。
「これか……? こんなところに隠しやがって!」
「浩さん、それに触らないで!」
私がを伸ばした瞬、浩は缶をく抱え込み、蓋を無理やりこじけた。 属の擦れる嫌な音が、静かな部に響いた。
缶のから、のにパラパラと物が落ちた。 古い記切が数枚。