"父の料亭を継いだ翌日、板長が全員連れて独立" 第10話
戻った、入ったの名を並べた。
そして、しばらく考えてから最に文だけした。
《辞めた理由ではなく、続けられる理由を残す》
父のノートとはし違う記録になった。
それでいいとった。
父がくなってから1が経った、のはようやく5まで営業できるようになった。
6全部をけるは、末の部だけにしている。
売だけを見れば、父が元気だった頃にはまだ届かない。
それでも利益は定し、件費を含めた数字も無理なく回るようになった。
何より。
この1で辞めたはもいなかった。
柚君は追い回しからつへみ、簡単な焼き物を任されるようになった。
君は汁を引く仕事を覚え始めた。
さんは井さんから座敷の采配を教わり、客の好みを自分のさな帳面へきつけている。
今井さんは相変わらず週4。
「私、が遅いからね」と自分で笑う。
すると葛さんが、「その代わり、皿を割らないでしょう」と返す。
父のノートにいてあった言葉を、私は葛さんへ教えていない。
偶然だった。
だから余計に笑ってしまった。
ある、浦さんがいつものように魚を届けたあと、帳でしずさんと茶をんでいた。
「今の鰆はいいぞ」
その声を聞きつけて沢渡さんが板からてくる。
「どこのです?」
はそのまま15分ほど魚の話をしていた。
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以、黒田さんの代には、浦さんが帳で居することはほとんどなかったという。
仕入れ先も板も座敷も、それぞれが直接話すようになった。
私は全部の話へ入らない。
任せるところは任せる。
ただし、誰かの声が消えていないかだけは見る。
それが今の私の仕事になった。
父の周忌の。
を閉めたあと、私はで帳へ残った。
壁には父の写真がある。
「お父さん」
返事はない。
「黒田さんがいなくなったら、このは終わるって言われたよ」
写真の父は昔と同じ顔をしている。
「私も半分はそうってた」
料理を作れない。
老舗のことも父ほどらない。
板へ入れば今でも邪魔になる。
それでもは続いている。
私は庫からあの学ノートをした。
父の癖をいす。
《を守っとるのは、の料理じゃない》
今なら、その続きが自分なりに言える。
料理だけではない。
女将だけでもない。
洗いで皿を守る。
座敷で客の顔を覚える。
朝く魚を届ける。
酒を掛けで預けてくれる。
へ包丁の持ち方を教える。
そして、何もを使い続けてくれる客。
その全部がを作る。
が抜ければ終わるなら、そのがいるから、もう危うかったのだ。
私はノートを閉じた。
携帯話には、あのの着信履歴の画面を撮った画像がまだ残っている。
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107件。
昔の私なら、その数字を見るたびに黒田さんが困ったことをいし、し胸がすいたかもしれない。
今は何ともわない。
本当に事だったのは、黒田さんが何回話を掛けてきたかではない。
私が度も話へなかったことでもない。
あのがていった、誰がこのへ戻ってきたのか。
そして誰が翌もここへ来ようとって帰れるにできたのか。
それだけだった。
閉、玄関へくと、井さんが最の座敷を確認していた。
「綾乃ちゃん、私、3に辞めたね、この柱のところで泣いたのよ」
広の柱だった。
黒田さんたちが辞表を置いた朝、私がを掛けていた柱でもある。
「りませんでした」
「誰にも見つからないように、でね」
井さんは柱を軽く叩いた。
「今は、を閉めるに『も来よう』とって帰ってる」
それだけ言って笑った。
私は胸の奥がくなった。
父が30ノートへき続けたのは、辞めたの記録だった。
できるなら私は、これから先、辞めたの名を数え続けたくない。
翌朝。
いつものにへ入ると、板からの音が聞こえてきた。
続いて包丁の音。
鍋の蓋がく音。
沢渡さんの声。
柚君の返事。
洗いで今井さんが器をねる音。
子どもの頃、階の部で毎朝聞いていたのの音だった。
私は帳の障子をけた。
しずさんがもう座っている。
「おはようございます」
「おはようございます、女将さん」
予約帳をく。
今の席は5件。
は4件。
無理をすればもうつ受けられる。
けれど、受けない。
続けるために。
父が守れなかったものまで守るために。
私は予約帳の余へ、さく本線を引いた。
のは終わらなかった。
黒田さんが戻らなかったからでもない。
私が特別な経営者だったからでもない。
ただ、だけでを支えているなど、最初から誰もいなかった。
84続いてきたは。
その当たりのことを。
度忘れ。
そしてもう度。
いしただけだった。