"「名前を書くな」公害病の申請を止めた父と、娘の「息がしたいだけ」" 第6話
活のために働いたことも、夜に病院へ連れていったことも消えない」
美紀は父の帳を見た。
そこにある、
《止めるべきだったか。》
という文が、さっきまでとは違って見えた。
父は答えをっていたのではない。
ずっと。
答えが分からないまま。
自分で抱えていた。
「お父さん」
忠雄が娘を見た。
「私、お父さんの会社を潰したいわけじゃないよ」
忠雄は何も言わなかった。
「お父さんが悪いって言いたいわけでもない」
美紀はしずつ言葉を続けた。
「でも、私が苦しいのは本当だよ」
その言だけで。
忠雄は目を伏せた。
次の。
彼は黒い帳を捨てなかった。
むしろ。
へ持っていった。
休憩、忠雄は野寺へ声をかけた。のない資材置きまでき、先の健康相談会で聞いた制度の説を伝えた。申請したからといって、自分たちの社の責任を認めさせる仕組みではないことも話した。
野寺はしばらく黙っていた。
「でもなあ」
「何だよ」
「会社がどううかは別だろ」
「それはそうだ」
忠雄も否定できなかった。
野寺は元のを蹴った。
「俺の番の息子もさ、最咳するんだよ」
忠雄は顔をげた。
「病院ったのか」
「女が連れてった。まだぜん息だとは言われてない。でも夜になると咳が止まらないがある」
以、公害申請をするを「騒ぐ連」
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と呼んでいた野寺が、今度はうつむいていた。
「女は回相談にきたいって言ってる。でも俺が止めてる」
「どうして」
「おと同じだよ」
野寺は苦笑した。
「会社で働いてる父親のが公害だって言いしたら、何言われるか分からん」
忠雄は返す言葉を失った。
自分だけではなかった。
同じで働き。
同じ町へ帰り。
子どもの咳を聞きながら。
同じように黙っている父親がいた。
そのの夕方。
保全班でさな打ちわせがあった。
設備の定期点検について話すで、忠雄は8に異常がた集じん設備について尋ねた。
「次の部品交換、いつになりますか」
吉岡係が資料を見た。
「末の定修でまとめてやる予定だ」
「回と同じ異常がたら?」
「そのはそのだ」
「応急で続けるんですか」
吉岡が顔をげた。
「井、どうした」
「別に。ただ回、止めて交換した方がいいって話もあったでしょう」
「だから定修でやる。はつの械のために簡単に止められない」
「分かっています」
「ならいいだろ」
周囲の同僚たちは黙っていた。
忠雄もそれ以は言わなかった。
けれど翌。
設備異常が再発したの対応について、自分なりに点検項目を理したを吉岡へ渡した。
「何だ、これ」
「完全止までいかなくても、数値がここを超えたら度負荷を落とした方がいいといます」
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「誰に言われた」
「誰にも」
吉岡はしばらく忠雄を見た。
「娘さんのことと仕事を混ぜてないだろうな」
忠雄の胸がくなった。
以なら黙ったかもしれない。
「娘のことがあったから考えたのは事実です。でも設備の話は設備の話です。問題がないなら、このを見て問題がないって言ってください」
吉岡はすぐには答えなかった。
「置いていけ」
それだけ言った。
数。
持久の授業で、美紀は見学になった。
庭の端へ置かれたベンチから、友達がるのを見ていた。以なら先へ頼み込み、しくらいらせてほしいと言っただろう。
けれど。
病院で、
「苦しくなるに休むことも事だ」
と言われた言葉をいし。
今回は黙って見ていた。
すると隣のクラスの男子が、
「井はいいな。らなくていいから」
と冗談っぽく言った。
美紀は返事をしなかった。
男子に悪気がないことは分かっていた。
だからこそ。
余計に苦しかった。
好きで見学しているわけではない。
みんなと同じようにりたい。
放課。
友達の子が追いかけてきた。
「美紀、あれ気にしてる?」
「何が」
「持久」
「別に」
「嘘」
子は美紀の横を歩いた。
「私だったららなくていいの嬉しいけどな」
「じゃあ代わる?」
美紀がわずく言うと、子は黙った。
「ごめん」
美紀はすぐ謝った。
「こっちこそ」
はしばらく無言で歩いた。
やがて子が、
「でも、本当に苦しいんだね」
と言った。
美紀はさく頷いた。
今まで。
なるべく見せないようにしてきた。