"「名前を書くな」公害病の申請を止めた父と、娘の「息がしたいだけ」" 第4話
玄関で靴を履いていると、忠雄が着を取った。
「俺もく」
芳は驚いたが、何も言わなかった。
会館には30ほど集まっていた。
咳をする老。
さな子どものを引く母親。
仕事帰りなのか、作業着姿の男も何かいる。
説に来た職員が制度の仕組みについて話した。
気汚染が著しいとされる域に定期居し、気管支ぜん息などの指定疾病について条件を満たせば、認定を申請することができる。
の男がを挙げた。
「申請したら、どこのが原因か決めるんですか」
職員は首を横に振った。
「この制度の第種域では、患者さんについて、特定のとの因果関係を個別に証するという仕組みではありません」
忠雄は初めて顔をげた。
自分はずっと。
美紀が申請する。
イコール。
化成を訴える。
そう考えていた。
職員は続けた。
「で働いているご族が申請をためらうケースもあります。ただ、認定申請は、ご本がどのような健康被害を受けているのかについて制度の判断を受けるものです。勤務先を社名指しして責任を認めさせる続きとは異なります」
忠雄は膝のでを握った。
帰り。
芳が言った。
「聞いたでしょう」
「聞いた」
「あなたのだけが悪いってく類じゃないのよ」
「分かってる」
「じゃあ、どうしてまだ反対するの」
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忠雄は歩き続けた。
しばらくして。
「班の話がある」
と言った。
芳のが止まった。
「何?」
「来、班をげる。俺も候補に入ってる」
「それで?」
「当が増える。そうしたら引っ越せるかもしれない」
芳は何も言わない。
「美紀をここからしてやれる」
「そのために、今は申請しないってこと?」
「会社と揉める必はないだろ」
「申請したら揉めるって、誰が言ったの」
「俺は18あそこにいる。分かるんだよ」
忠雄の声がくなった。
「いくら制度が違うって言っても、会社の名と公害が緒にれば面くないはいる。あとしなんだ。あとしすれば料もがる。そうしたら美紀をもっと空気のいいところへ――」
「あとしって、何?」
芳の声は静かだった。
忠雄が黙った。
「美紀が6歳のも言った。もうし。9歳のも言った。も言った。今まで何回言ったの?」
「じゃあどうしろって言うんだ」
「私に聞かないでよ」
芳も声を震わせた。
「あなたが決めることでしょう。会社で18働いた父親として決めるのか、美紀の父親として決めるのか、私はそこまで代わりにできない」
その夜。
の話を。
美紀は廊で聞いていた。
父が自分の病気を信じていないわけではなかった。
むしろ。
逆だった。
っているから。
怖いのかもしれない。
自分が18働いた。
族をべさせた。
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父が誇らしそうに。
「町をきくするものを作ってる」
と言った所。
そのくで。
娘が息をできなくなる。
もし。
つがしでもつながっていたら。
父は何を信じればいいのだろう。
数。
美紀は学から帰ると、父の作業着が居の柱に掛かっているのを見つけた。
忠雄は呂に入っていた。
芳は買い物へている。
美紀が通り過ぎた。
胸ポケットからさな黒い帳がへ落ちた。
拾いげた。
くつもりはなかった。
けれど。
落ちた衝撃で。
途のページがいていた。
そこには。
父の字で。
付が何も並んでいた。
《614 集じん設備異常》
《72 排気系統点検》
《719 応急運転》
そして。
《87 第3集じん設備 送異常》
美紀のが止まった。
87。
覚えていた。
休み。
夜に息ができなくなって。
父の自転で診療所へっただった。
さらにに。
別の字があった。
《止めるべきだったか。》
美紀は何度も読んだ。
呂の戸がく音がした。
振り返る。
忠雄がっていた。
濡れた髪のまま。
娘のにある帳を見て。
顔を変えた。
「それをどこで見つけた」
美紀は答えなかった。
代わりに。
87の文字を指した。
「お父さん」
声が震えた。
「これ、何を止めるべきだったの?」
忠雄はしばらくかなかった。
鳴られるとった美紀は帳を握ったまま構えたが、父は「勝に見るな」
とも「返せ」とも言わなかった。濡れた髪から落ちた滴が肩へ染み込み、それでも線だけは帳のページかられなかった。