"母が残した最後の住所" 第6話
祖父とは毎朝と夕方、同じ卓へ座った。
会話はほとんどない。
「学はどうだ」
「普通です」
「そうか」
それで終わった。
母の話もしない。
20のことも説しない。
俺はそれが腹たしかった。
度謝れば終わりなのかとった。
俺がりたいのは、「なぜ迎えにかなかったのか」だった。
ある夜、廊で祖父を見かけた。俺が使っている母の部のにち、閉まった襖を見ていた。入ってくるわけではなく、5分ほどったあと、杖をついて自分の斎へ戻っていった。
その背を見ながらも、俺は声をかけられなかった。
俺も祖父と同じだったのだとう。
聞きたい。
でも聞けない。
相から言うのを待っている。
それが以続いた。
転した学では、俺を「朝倉さんのところの孫」と呼ぶ徒がいた。俺の名字は真野なのに、学の先まで々「朝倉君」と言い違えた。そう呼ばれるたび、自分の名の半分がなくなるような気がした。
俺は放課になるとでった。
以の学では陸部にいたが、転先では入部しなかった。グラウンドの周をが暮れるまでり、何も考えられなくなるまで体を疲れさせてから敷へ戻った。
へ学した。
祖父の弟、朝倉俊彦が敷へ来た。
朝倉醸造の専務で、会社では祖父に次ぐだった。叔父は俺の顔を見るなり、「千鶴に似ているな」
広告
と言い、それから「名字は真野のままでいい。その方が君のためだ」と付け加えた。
が分かったのは、そのの夕方だった。
玄関へ戻ると、座敷から叔父の声が聞こえた。
「兄さん。あの子は真野のだ。千鶴はをた。20度も戻らなかった。それなのに、その息子へ会社の株が渡ればどうなる」
俺は靴を脱ぐを止めた。
「兄さんがねば千鶴の相続分は君へ回る。社員が180いる会社だぞ。だけで決めていい話じゃない」
祖父の声は聞こえなかった。
叔父は続けた。
「学をるまでのはせばいい。そのもまとまったを渡せば困らないだろう。ただ、会社とあの子のには今のうちに線を引くべきだ」
俺は靴を履き直した。
敷をた。
坂の途まで歩き、脇へ座り込んだ。
母が20働いたこと。
指を切らしながら俺を育てたこと。
のに俺をかばってんだこと。
その最に残された俺が。
今度は「株を渡すかどうか」で話しわれている。
何のためにこのへ来たのか分からなくなった。
その夜。
祖父の斎へ入った。
「ていきます」
祖父は静かに顔をげた。
「株も会社もいりません。そんなものが欲しくてここへ来たんじゃない」
「分かっている」
「じゃあ、つだけ答えてください」
俺はずっと聞けなかったことを、やっとにした。
「なぜ母さんを迎えにかなかったんですか」
広告
祖父はいこと答えなかった。
俺はその沈黙に耐えられなくなり、「度と戻るなと言ったのはあなたでしょう。でも、それなら自分で撤回すればよかったじゃないですか」と続けた。1でも5でも、度だけ迎えにってくれていれば、母のは違ったかもしれない。
「答えられん」
祖父はそう言った。
「どうしてですか」
「何を言っても、言い訳になる」
俺は机を叩いた。
「じゃあ俺がここにいるもないです。あなたは母さんに謝れないから、代わりに俺をませてるんでしょう。でも俺は母さんの代わりじゃない」
祖父の肩が、ほんのしがった。
言いすぎたとはった。
けれど取り消さなかった。
は辞めない。アルバイトをしてで暮らす。未成で契約に必な類だけは見として伝ってほしいと伝えた。
祖父は反対しなかった。
「16の子どもがで部を借りるには保証がる。それはわしの役目だ。押させろ」
それだけ言った。
末。
俺は敷から自転で20分ほどの古いアパートへ移った。
賃3万2千円。
造階建て。
偶然にも、階段は段目が鳴った。
それを聞いた、俺は玄関先でしだけ笑った。
母と暮らしていた部をいした。
駅の弁当で夕方から働き、売れ残った弁当をもらって帰った。洗濯も掃除も自分でする活は変だったが、議とは落ち着いた。
噌汁も自分で作ったが、具をつ入れる余裕はなく、ほとんどつだった。