"奪われた十八年の通帳" 第25話
老の目から、い涙がポロポロと零れ落ちていた。
「よく……よく、耐えてくれた。剛造さんも、きっと見ていてくださる。……あの継所のは、組が正規の適正価格で、買い取らせてもらう。おさんのこれからのの資にしなさい」
「……ありがとうございます、会」
私は微笑み、もう度くをげた。
エレベーターをり、本社ビルのガラス扉をると、午のたい夕が私の頬を撫でた。 空は茜から、濃いへとグラデーションを描いて暮れかけている。
、私の首を絞め続けていた見えない鎖が、完全に砕け散った音がした。 私はタクシーを拾い、あのプレハブ平へと急いだ。
最の、清算をするために。
午分。 継所の敷にタクシーが止まった。
をりると、あたり面に、甘辛い醤油と質な牛肉の匂いがち込めていた。 プレハブの換気扇が、猛烈な勢いでい煙を吐きしている。
引き戸をけると、温かい気と共に、静子の浮かれたが聞こえてきた。
居の板のテーブルのでは、ポータブルガスコンロにかけられた鉄鍋が、グツグツと景気のいい音をてて煮えたぎっていた。 鍋のには、あのデパのピンクの袋からされたであろう、見事なりの牛肉が、ネギや豆腐と共に惜しげもなく放り込まれている。
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「あら、登紀子。まだいたのかい」
静子は割り箸をに持ち、鍋のの肉をつつきながら、勝ち誇った顔で私をねめつけた。
「てっきりもう、ボロアパートへ引っ越したのかとったよ。まあいいさ、敏之が帰ってきたら、この等な肉で祝杯をあげるんだからね。あんたの分なんざ、筋も残しゃしないよ」
静子は肉を切れに放り込み、ハフハフと息を吐きながら目を細めた。
「ああ、美いねえ! やっぱり物の根とはモノが違うわ! 敏之が本社にけば、あたしゃ毎晩こんな美いもんをべて、辺のホームで優雅に暮らすんだから! あんたみたいなただ飯喰らいを追いして、本当に清々するよ!」
私は何も言わず、コートを脱ぐこともせず、テーブルの空いているスペースに歩み寄った。
そして、バッグから取りした類を、静子の目のに、枚ずつ並べていった。
枚目。 緑の婚届。 私の欄には、すでに完璧な跡で署名と実印が捺されている。
「これに判を捺せと、敏之さんに言われましたので。役所に提しておきます」
「ふん、当たりだよ! さっさとしといで!」
枚目。 あの群馬の奥の無認施設『やまびこ苑』のパンフレット。 そして、そこに貼られたままの、玲奈のいたピンクの付箋。
「……何だい、これは?」
静子がいぶかしげに眉を寄せ、付箋の丸文字に目を落とした。
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『お義母さんの施設、ここならだけでギリギリいけるよ! 浮いたおとを売ったおで、駅の築マンションにしよーね♡』
静子のが、ピタリと止まった。 割り箸の先から、煮汁がポタポタと畳のに滴り落ちる。
「な……何だい、これ……。だけで……ギリギリ……? 駅のマンション……?」
「それをいたのは、敏之さんが半、会社のを何百万も貢いでいた、若い事務員の女性です」
私の平坦な声が、煮えたぎる鍋の音になる。
「敏之さんは、あなたを辺の級ホームに入れるつもりなど、最初からありませんでしたよ。このを売り払ったで女とタワーマンションを買い、邪魔になったあなたを、この額万円の奥の施設に放り捨てる計画でした」
「嘘……嘘だよ! 敏之がそんなこと……!」
「そして、これが枚目です」
私は『建物収・渡請求通』を、すき焼き鍋の真横に叩きつけた。
「敏之さんは先ほど、本社の役員会議で懲戒解雇されました。業務横領と、半の事故に関わった容疑で、先ほど警察に逮捕されましたよ」
「たい……ほ……?」
静子の顔から、完全に表が抜け落ちた。 箸がから滑り落ち、ジュッとコンロの徳に当たって焦げた匂いをてる。
「このは、私のき父のものです。敏之さんは円の退職もないまま、数千万円の借を背負い、さらに自費でこのを取り壊さなければなりません。
……お義母さん。あなたが自していた優秀な息子さんは、もうどこにもいませんよ」