"奪われた十八年の通帳" 第24話
「あ、あれは嘘だ! 冗談だ!」
「冗談ではありませんでしたよ。……それに、あなたにはまだ、売るための『』があるのでしょう?」
私の言葉に、敏之の濁った瞳に、最の、浅ましいがパッと灯った。
「そ、そうだ! だ! だ!」
敏之はちがろうとしてよろめき、役員たちに向かって叫んだ。
「会! 俺には継所のとがあるんです! 査定額は千百万円です! あれを今すぐ売れば、横領したなんざ括で返せます! だから、どうか……!」
敏之は、自分を救う最の命綱を掴んだかのように、狂った笑みを浮かべて私を睨んだ。
「おい、登紀子! お、今すぐ産にハンコ持ってけ! 俺のを売るんだ! あれは俺が汗垂らして建てた、俺のなんだよ!」
私はバッグのジッパーを引いた。 から、あの黄ばんだに包まれた類の束を取りす。
バサリ。
敏之の目の、絨毯のに、枚の公な証を落とした。
「残ですが。そのは、円にもなりませんよ」
「……あ?」
敏之が呆然として類を拾いげた。 その面を覆い尽くす、法務局の々しい公印。 そして、所者の欄に刻まれた文字。
『真壁登紀子』
「……な……んだ、これ……まかべ……?」
敏之の指が震え、がカサカサと音をてる。
「佐藤敏之君」
役員席の田会が、々しくちがった。 その目は、傍の汚物を見るようにたかった。
「おが、飯の種にしてきたあの継所のはな。
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、真壁剛造さんが、湾岸の物流を守るために私財を投げ打って残した『永久防災緩衝』だ。目が厳格に指定され、剛造さんの直系卑属以の売買は、法に切禁じられている」
会の言葉が、敏之の脳に鉄槌のように叩き込まれる。
「建物の名義はおかもしれんが、はおのものではない。登紀子さんの無償の使用貸借同があったからこそ、あのボロプレハブが建っていられたんだ。……だが、婚が成すれば、おはただの法占拠者だ」
「ひ……」
敏之の喉から、引き攣った鳴が漏れた。
「そして、これが最の続きです」
沢田弁護士が、もう枚の通を敏之の胸元に突きつけた。
『建物収・渡請求通』
「所者である真壁登紀子氏は、あなたに対する使用貸借契約を、な背任為により即解除しました。あなたは、ヶ以内に、あなた自の費用で自費解体事をい、あのプレハブを更にしてを返還しなければなりません。解体費用の概算は、約百万円です」
「百……万……」
敏之の瞳から、完全にが消え失せた。
横領の返済、百万円。 親会社からの損害賠償。 保険の返還請求、百万円。 そして、解体費用、百万円。 退職はゼロ。 科がつき、業界を永久追放された歳の男に遺されたのは、破産宣告すら免責されない、数千万円の借のだけだった。
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「嘘だ……嘘だろ……! 登紀子! お、持ちの娘だったのか!? なんで言わなかった! なんで黙ってたんだよ!」
敏之はをいずり、私のコートの裾を掴もうとを伸ばした。 私は歩、たくろへ引き、そのを避けた。
「言ったら、どうされたのですか?」
私の問いに、敏之は言葉を失い、をパクパクとかした。
「私の父のを当てにして、さらにい期から横領と浮気に溺れただけではありませんか。……私は、あなたというを信じたかった。けれど、あなたは最初から、私というを見てなどいなかった」
「登紀子……頼む……見捨てないでくれ……!」
「連れてきなさい」
常務のが振られた。 刑事たちが敏之の腕をから固め、引きずり起こす。 敏之は腰が抜け、革靴の踵を引きずりながら、けない叫び声をげ続けた。
「登紀子ー! 母さんを……母さんを頼む! 母さんを見捨てないでくれー!」
その叫び声は、廊の向こうへと消えていった。 玲奈もまた、女性警察官に両脇を抱えられ、ボロボロと涙を流しながら連されていった。 かつて私を「油臭いババア」と嘲笑ったあの女の顔には、もはや片の美しさも残っていなかった。
静まり返った会議で、私は役員たちに向き直り、くをげた。
「皆様、貴なおをいただき、誠にありがとうございました」
「登紀子さん」
田会が歩み寄り、私の両を、その節くれだったきな掌で包み込んだ。