"奪われた十八年の通帳" 第22話
そのタイトルを目にした瞬、敏之の顔から、さっと血の気が引いていくのが目にも分かった。 赤黒かった肌が、まるでのようなへと変していく。
「な……なんですか、これは……」
敏之の喉から、掠れた声が漏れた。
「佐藤敏之」
最列の暗がりから、沢田弁護士が凛とした声で呼びかけながら、通を歩みた。 そのろに、私も続いた。 カツン、カツンと、くなった私の革靴の音が、を打ったように静まり返った会議に響き渡る。
席者全員の線が、斉に私たちへと向けられた。
壇の敏之の目が、信じられないものを見るように見かれた。 その線の先にあるのは、ボロ布のような防寒着ではなく、古い濃紺のコートを着て、背筋をまっすぐに伸ばして歩いてくる、私だった。
「と……登紀子……!? テメエ、なんでここに……!」
敏之はマイクを握ったまま、取り乱して叫んだ。 隣にいた玲奈も、持っていたタブレットを取り落としそうになりながら、息を呑んだ。
「お、がおかしくなったのか! ここは本社の役員会議だぞ! 誰の許を得て入ってきやがった!」
敏之は演台からびり、鬼の形相で私に詰め寄ろうとした。 だが、そのを遮るように、の柄な監査部員がちはだかった。
「常務! 申し訳ありません!」
敏之は部員の肩越しに、必で役員席に向かってをげた。
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「こいつは私の……いや、昨婚届を突きつけた、精神に異常をきたしている妻です! 私が世するのが悔しくて、嫌がらせに乗り込んできたに違いありません! 今すぐ警備員を呼んでつまみしてください!」
玲奈もすかさず、甲い切り声で同調した。
「そうです! 常務、この女、普段から油臭いボロ着て現をうろついてるだけの、ただの雑用係ですよ! 敏之さんの事なれ台を台無しにする気なんです! く追いしてください!」
の見苦しい叫びが、広な空に虚しく反響した。 役員席の誰も、をかない。 ただ、え切った蔑みの目を、壇のに向けていた。
「静かにしたまえ、佐藤君、君」
常務が静かに言った。
「彼女は、私が正式に、この会議の特別参考としてお招きしたのだ」
「は……? 参考……?」
敏之のが、抜けに半きになった。
「沢田。報告の概を」
常務の指示を受け、沢田弁護士が壇のスクリーンに向かってリモコンを操作した。 パッと画面が切り替わる。 そこに映しされたのは、敏之の自のグラフなどではなかった。
びっしりと並んだ座の取引履歴。 継所の軽油タンクの引き抜き記録。 そして、インターネットの転売サイトのキャプチャ画面。
「過ヶ、佐藤敏之主任の決裁印によって正に引き落とされた軽油は、総量万千リットル。
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被害総額は百万円にります」
沢田弁護士の淡々とした声が、敏之の鼓膜を抉る。
「燃料はブローカーに横流しされ、その代はすべて、玲奈名義の隠し座に振り込まれていました。また、玲奈が会社の交際費で購入したとされる級ブランドバッグや貴属は、転売サイトを通じて現化され、の個な遊興費――先週末の伊豆の級旅館の宿泊費などに充てられていました」
会から、いうめき声と、激しいざわめきが湧き起こった。 請けの社たちが、りに満ちた目で敏之を睨みつける。
「ち、違います!」
敏之は額から滝のような脂汗を流しながら、狂ったようにを振った。
「俺はりません! 全部、そこのが勝にやったことです! 俺はハンコを貸しただけで、事務処理は全部こいつに任せていたんです! 俺は騙されていた被害者なんです!」
「……え?」
演台の脇で固まっていた玲奈が、凍りついたような声を漏らした。
「敏之さん……? 今、なんて言ったの……?」
「テメエがやったんだろうが!」
敏之は突然、振り向きざまに玲奈の胸元を力任せに突きばした。 いヒールを履いていた玲奈はバランスを崩し、ガシャーンときな音をてて演台ごとに倒れ込んだ。 マイクがハウリングを起こし、キーンという障りな子音が会議を引き裂く。
「全部こいつの差しです! 俺を誘惑して、会社のを盗んで贅沢させろと唆したんです! 俺は悪くありません!」