"奪われた十八年の通帳" 第19話
バサリ。
居の板のテーブルのに、無造作に叩きつけられたのは、あの黄緑の用だった。 夫の欄に敏之の署名があり、証の欄に玲奈の名と鮮やかな朱肉が押された、あの婚届。
そして、茶封筒から引きずりされたのは、帯封の解かれた、くたびれた万円札の束だった。
「これに判を捺せ」
敏之は腕を組み、ふんぞり返りながら私を見ろした。
「俺は、おと婚する」
静子がパッと顔を輝かせ、を叩いた。
「まあ! 敏之、本当かい! やっとこの役たずとが切れるんだね!」
敏之は母親の歓声に応えるように、満げにを鳴らした。
「おにはが尽きたんだよ。、何の芸もなく、子供も産めず、ただ飯をらい続けた。俺みたいなにく男の隣に、おみたいな油臭いババアは相応しくねえんだよ」
敏之はテーブルのの札束を、指先で突いた。
「万だ。俺の切れだとえ。それで駅のボロアパートでも借りて、でパートでもして野垂れね。……言っとくが、このもプレハブも、俺の名義だ。来週には更にして業者に引き渡す。おに分ける財産なんざ、円もねえからな」
万円。 の私の命の値段が、たった枚の切れとして、汚れたテーブルのに投げされていた。
私はテーブルのの緑の用と、札束を、ただ静かに見つめた。
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りも、悔しさも、湧いてこない。 ただ、目のの男の浅ましさが、れなほどに浮き彫りになっていた。
「……わかりました」
私の澄んだ声に、敏之は拍子抜けしたように眉をげた。
「なんだ、もっとゴネるかとったが、自分の無能さがに沁みたか。なら話がえ。今すぐサインして判を捺せ」
「いいえ」
私はゆっくりと顔をげた。
「荷物の理があります。分の荷物です。今夜すぐにていくことはできません」
「チッ、グズが」
敏之は舌打ちをし、ポケットから煙を取りしてをつけた。 の煙をく吸い込み、私の元めがけて、わざとらしくフッと吹きかけた。
煙が、私の膝のあたりに漂い、すえた臭いがをつく。
「の曜だ」
敏之はを畳のに落としながら、酷に告げた。
「曜の午、俺は本社の会議で、役員全員ので発表会をやる。それが終われば、俺は本社のだ。……いいか、周りのも含めて、この敷の寸のもおにくれてやる気はねえ。曜の夕方、俺がここへ戻ってきた、おの荷物がつでも残ってたら、おごと国の側溝に叩き落としてやるからな」
「そうだよ! さっさと消え失せな!」
静子の甲い嘲笑が、狭いプレハブに霊した。
煙のが、私の元の畳に落ちて、さく焦げ跡を作った。 私はその黒い染みを見つめ、それから、敏之の目をまっすぐに見据えた。
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その瞳の奥にある、底なしの暗を、ミリも逸らさずに。
「……承いたしました」
私は静かに、をげた。
「曜の、総会が終わるまでに。……このにあるすべてのものを、綺麗に、清算しておきます」
敏之は私の言葉の真に毛筋ほども気づかず、 「フン、聞き分けだけはいいこった」と吐き捨てて、ビールを取りに台所へと向かった。
居に残された婚届の、玲奈の赤い印が、蛍灯のので、まるで血だまりのように濡れて見えていた。
、晦の朝。
国号線をき交う型の数は、普段の半分ほどに減っていた。 それでも、アスファルトの継ぎ目を踏み越える距凍のい響きが、サッシのないトタン壁を容赦なく揺らし続けている。
午。 プレハブ平の台所は、気温と変わらない気に包まれていた。 息を吐くと、く固まった煙が暗い蛍灯のをかすめる。
私は使い続けた、底の歪んだアルミの平鍋に井戸を張り、にかけた。 青いプロパンガスの炎が、チリチリと乾いた音をてて鍋底を舐める。
「おい、登紀子。俺の勝負ネクタイ、どこへやった」
寝のベニヤ板の引き戸を蹴けるようにして、敏之がてきた。 すでに、量販で買ったばかりの濃紺の沢スーツを着込み、髪にはべっとりとポマードをつけて固めている。
鏡を見るその横顔は、これから始まる「本社の次総会」