"奪われた十八年の通帳" 第17話
彼はゆっくりとちがり、壁際に置かれた庫へと歩いていった。 暗証番号を回し、い鉄の扉をける。 取りしてきたのは、古びた桐の箱だった。
蓋をけると、には、黄ばんだに包まれた、冊の権利証と、法務局の印鑑証が入っていた。
「……売れるはずがねえんだよ」
田会の声は、くりに震えていた。
「あのはな、昭、この湾岸の埋帯が備された、剛造さんが組のために私財を投げ打って買い取った『港湾防災物流緩衝』だ。組のトラックが事故を起こしたの避難所、災害の物資補拠点として、特別な目設定がされている」
田会は、権利証の表をおしそうに撫でた。
「剛造さんは、自分がんだ、万がにも組や親会社が傾いた、ドライバーたちの退職と補償を確保するために、そのの所権を個名義のまま残した。……そして、剛造さんが息を引き取る直、公正証遺言によって、そのの永久な所権と権は、ただの相続に譲渡されたんだ」
会は、その類を私のに置いた。
表に記された、所者の名。
『真壁登紀子』
、私が敏之と籍を入れるの、私の旧名だった。
「敏之の父親が、昔、剛造さんの運転をしていてな。を建てるがなくて困っていた、剛造さんが『はタダで使っていいから、にプレハブでも建てて暮らせ』と、無償の使用貸借を認めてやったんだ。
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敏之が持っているのは、そのに建っているボロプレハブの、束文の建物名義だけだ」
田会のが、鋭くった。
「の所者である登紀子さんの同印がねえ類なんざ、屑だ。産の査定なんざ、あいつのついた嘘を鵜呑みにした机の空論に過ぎん。……敏之には、あのを売る権利など、ミリたりともねえんだよ」
目ののが、完全にれたような覚だった。
敏之が誇らしげに語っていた「俺の稼ぎでに入れた」。 あの女とで見ていた「千百万円の築マンション」。 義母が私を見しながら自していた「息子の」。
そのすべてが、最初から、私の父の掌のに置かれた砂のに過ぎなかったのだ。 私の父が、娘を守るために張り巡らせておいた、の見えない鎖。 敏之は、その鎖に繋がれていることすら気づかず、狂ったように吠え、私を蹴にしていたのだ。
「沢田先。田会」
私は背筋を正し、の目を静かに見据えた。
「警察に被害届をすのは、曜の夕方まで待っていただけないでしょうか」
沢田弁護士が、審そうに眉をひそめた。
「曜? なぜです。奴らが伊豆から戻るの晩にでも、柄を押さえるべきです。証拠隠滅の恐れもある」
「曜の午から、本社の会議で、に度の『湾岸区・運管理改革発表会』がありますね」
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私の言葉に、田会がハッとしたように顔をげた。
「……ああ。各社の配主任や役員が集まる、親会社の次総会だ。敏之の奴、今はその壇で、請けの代表としてプレゼンをやることになっている」
「ええ、っています」
私の声は、驚くほど澄んでいた。 の波は、完全に消えっていた。
「敏之さんは、その発表会で役員たちに認められ、来期から本社の課待遇に引きげられると信じ込んでいます。玲奈も、壇で彼のアシスタントを務める予定です。……が、自分たちの嘘と横領と、私から奪ったで塗り固めたの、最も輝かしい絶頂につ瞬です」
私はちがり、テーブルのの黄い鉄屑を、再び丁寧に聞で包み直した。
「彼らにとっての最の晩餐を、あの所で終わらせたいのです。棒が、棒の顔をして壇にっているその瞬に、すべての請求を突きつけたい。……それが、、父の名を隠してあの男に仕えてきた、私の最の仕事です」
数秒の、完全な沈黙があった。 やがて、田会が喉の奥で、ゴクリと唾をみ込んだ。 その皺だらけの顔に、、港の荒くれ者たちを束ねていた頃の、凄まじい気迫が蘇っていた。
「……沢田。配しろ」
会のく唸るような声が、部の空気を震わせた。