"奪われた十八年の通帳" 第15話
受付の内線話を取り、昨夜の帳にかれていた番号を回す。
「……真壁です」
それだけ告げると、受話器の向こうでく息を吸い込む音がし、 「階の、奥の会議へ」と、押し殺した声が返ってきた。
軋む階段をがり、階の突き当たりにある「特別応接」のドアのにつ。 ドアノブにをかけ、押しける。
部のは、驚くほど静まり返っていた。 古い油ストーブが、チチチ、とさな燃焼音をてている。 ブラインドが半分ろされた暗い内に、の男が座っていた。
座の革張りソファに座っていたのは、昨夜の田会だった。 仕ての良いチャコールグレーのつ揃いスーツを着ているが、その顔は気で、目のにはい窪みが刻まれていた。 そして、その隣のパイプ子には、縁の鏡をかけ、黒いウールのトレンチコートを着たの男が、背筋を伸ばして腰掛けていた。
「……よく、来てくれたな。登紀子さん」
田会がちがろうとした。 その膝が微かに震えているのを見て、私は咄嗟にで制した。
「座ったままで結構です、田会。……お久しぶりです」
私はドアを閉め、革のフラットシューズの踵を揃えて、々とをげた。
「すまなかった」
田会のから、最初に漏れたのは、絞りすような謝罪の言葉だった。 を過ぎ、業界の頂点に君臨する老の瞳に、赤いにじみが広がっていく。
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「剛造さんの……あの恩ある剛造さんの娘さんを、あんな……あんな請けの吹きさらしののに、も放置してしまった。俺の目が節穴だったんだ。敏之の奴が、おを娶っていたことすら……俺は、昨の今までらなかったんだ」
「父がぬ際に、言ったのです」
私は田会の正面のソファに、浅く腰掛けながら言った。 膝ののバッグを、両で固く抱きしめる。
「『田や組の連には、絶対に頼るな。あいつらはおにががらなくなる。おは、おの選んだ男と、普通の女として、にまみれてきていけ』と。……私は、父の言いつけを守りたかっただけです。敏之さんが、私をひとりのとして見てくれていると、信じたかった」
「だが、その結果が、あれか」
田会が、悔しげに拳を膝に叩きつけた。
「あんな汚い、見栄と欲しかねえ男に……! あいつが現でどれだけ威張り散らし、若い事務員と良からぬ噂をてていたか、俺のにも入ってはいた。だが、まさかその裏で、剛造さんの娘がドカジャンを着てビールの空箱を運ばされていたとは……。んでも、あの世で剛造さんに顔向けができん」
「会、傷はそこまでにしましょう」
隣に座っていた鏡の男が、静かな、徹な声でを挟んだ。 男は名刺入れから枚のカードを取りし、ローテーブルのに滑らせた。
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『港運株式会社 法務監査・弁護士 沢田宏』
「佐藤登紀子さんですね。私は本社の内部監査と法務を取り仕切っております。昨夜、田会から連絡を受け、徹夜であなたの夫――佐藤敏之主任、および事務員の玲奈に関する記録を洗いました」
沢田弁護士は、元に置いてあった分い黒革のファイルをテーブルのに置いた。 ドサリ、とい音が響く。
「まず、結論から申しげます。佐藤敏之と玲奈の名は、が社に対する極めて悪質な背任為、および業務横領をっています」
沢田はファイルをめくり、幾にもマーカーが引かれた伝票のコピーを指し示した。
「過ヶ、継所における軽油の引き落とし伝票です。佐藤敏之の決済印を使い、平均で千リットル以の燃料が『距傭への現物支』名目で架空計されていました。しかし、該当する運送会社に確認を取ったところ、そんな燃料の受領記録はしない。……彼らは、継所のタンクから抜き取った軽油を、ブローカーに横流しし、現化していたのです」
「……額は」
私の乾いた問いに、沢田は鏡のブリッジを指で押しげながら答えた。
「確認が取れただけで、百万円。すべて、玲奈が設した別名義の座に還流されています。さらに、彼女が会社の交際費として処理していた贈答用の級化粧品やブランドバッグ。