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"奪われた十八年の通帳" 第12話

「いいえ、まだですけれど」

私が静子の靴を脱がせようと屈み込むと、彼女は私の肩を杖の先で突くようにして押し退けた。

「ふん、あんたに連絡なんかあるわけないか! 敏之はね、今にきな仕事を決めて、うんと世するんだよ! そうしたら、あたしをの見える級な老ホームに入れてくれるって、今朝約束してくれたんだからね!」

静子は誇らしげに、歪んだ元を吊りげて笑った。

「そこはねえ、専属の護師がいて、毎しい刺るんだそうだよ! あんたの作るような塩辛い根汁とは違いさ! あんたみたいな何の取り柄もない嫁に頼らなくても、あたしの老泰なんだよ! おなんかいなくなって、せいせいするわ!」

私は靴を揃え、ゆっくりと顔をげた。

の見える、級老ホーム。 専属の護師。 美しい刺

、あの引きしの奥で見た、剥がれかけた壁の『やまびこ苑』の写真が、鮮やかに脳裏をよぎる。 千円。 だけでギリギリける、奥の吹きさらしの施設。 それが、彼女が命がけで庇い、誇りにっている息子が用した、現実の終の処だった。

「……そうですね」

私は静かにがり、静子の子のハンドルを握った。

「お義母さんの老が、その通りになるといいですね。から、祈っております」

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「あったりだよ! 敏之はあたしの事な息子なんだからね! ほら、突っってないで、居の畳を拭きな! さっきからアンモニア臭くて敵わないんだよ!」

静子は満そうに鳴り、テレビのリモコンをひったくった。

私は何も言わず、台所から雑巾を持ってくると、居の隅に膝をついた。 ゴシゴシと、古びた畳の目を擦る。 背で流れるバラエティ番組の甲い笑い声が、ひどくくの世界の来事のように聞こえていた。

真実をらないのは、このれな母親と、自分がすべてを支配しているとい込んでいる愚かな夫の、だけだった。

。 静子が眠薬をんで寝静まり、が再びい静寂に包まれた。

は、が吹き荒れていた。 国を通過するトラックが巻きげる突が、プレハブのトタン板をバタバタと激しく叩く。

敏之はまだ帰らない。 おそらく今頃は、会社の事務所で玲奈と、週末の温泉旅の計画でもてているのだろう。

私は防寒ドカジャンを羽織り、音を忍ばせて勝からた。 には、充式の力なLED投器と、錆びたバール。

たいが、容赦なく私の髪を乱す。 継所の敷の最も奥、灯のすら届かない所へと向かった。

そこは、事故や故障のスクラップ、使用済みのドラム缶が無造作に積みげられた、通称『ゴミ捨て』だった。

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が溜まったドラム缶から、腐った軽油との混ざりった異臭がち込めている。

私は、積みにされたの廃タイヤのへと回り込んだ。 そこには、を避けるように、破れたブルーシートが何にも被せられた角があった。

シートの端を留めていたコンクリートブロックをどかし、力任せに引き剥がす。

バサリ、とい音をててシートがめくれがった。 投器の鋭いが、暗に埋もれていた鉄の塊を浮き彫りにする。

それは、無惨にへしゃげた、軽トラックのフロントバンパーと、側のフェンダーパネルだった。

曲峠の底から引き揚げられ、警察の検証が終わった、敏之が「スクラップ業者に引き渡す」と言って、密かにこの所に隠し持ってきた残骸。

私はバールを面に置き、膝をついて投器のをパネルの歪みにづけた。

事故を起こした軽トラックのは、鮮やかな黄だった。 運送会社のコーポレートカラーである黄。 その塗装が、激しい衝撃でバリバリにひび割れている。

だが、私の目を釘付けにしたのは、そのひび割れではなかった。

い塗装を削り取るように、フェンダーの側面にく、直線に刻まれた擦過痕。 そのい溝の奥底に、相体から削り取られて固着した、別のアクリル塗料が付着していた。

と、緑。

落ちの古いクラウンの、あのツートンカラーの塗料だった。

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