"奪われた十八年の通帳" 第7話
それは、料所のレシートとは違う、質でみのあるだった。 横浜の元町にある、輸入宝飾のロゴが入った領収。
品名:『ペアウォッチ・限定モデル』 額:『万円』 宛名:『佐藤敏之様』
そして、付。
『』
。 その付を見た瞬、私のので、何かが音をてて千切れんだ。
週の曜。 あの夜、静子が突然の呼吸困難を起こし、チアノーゼで顔を真っ青にして畳のでのたうち回った。 パニックになった私は、敏之の携帯話に何度も、何度も話をかけた。 呼びし音は鳴れど、決してない。 回目にようやく繋がった話の向こうで、敏之は酷に言い放ったのだ。
『国で型が横転して、緊急の復旧作業にち会ってんだよ! つまらんことで何度も鳴らすな! のことぐらいテメエでなんとかしろ!』
方に切られた通話。 私はで救急を呼び、氷のる、救急病院の暗い廊で、義母の処置が終わるのを祈るいで待ち続けた。 あの、獄のような夜。
敏之は、国になどいなかったのだ。 元町の煌びやかなブティックで、かな照の、玲奈とでシャンパングラスでも傾けながら、万円のペアウォッチを選んでいたのだ。
領収のに、さなつ折りのメッセージカードが挟まっていた。
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丸みを帯びた、玲奈のあの特徴な、稚拙な跡だった。
『敏之さんへ。お揃いの計、すっごく嬉しい! くあの煤けたおばさんと別れてね。 曲峠の件、パパ(田会)には絶対バレないように処理してくれたんだから、 あとは約束通り、あのを売って、あたしを番にしてよ? 玲奈』
灯のので、その文字が網膜に焼き付いてれない。
曲峠の件。 パパには絶対バレないように。 あのを売って。
ので、バラバラだったピースが、恐ろしい速度で噛みっていく。
玲奈の弟の事故は、単なる過積載や居眠りではなかったのか。 敏之があの夜、曲峠にいた理由。 そして、この空になった凍液の容器。 自のブレーキフルードに、粘度の似た凍液を混入させれば、過した際にペーパーロック現象を引き起こし、ブレーキは完全に効かなくなる――。 昔、父のターミナルにいた古い備士が、酒の席でそんな話をしていた記憶が、突如として蘇った。
「……あいつら、何を……」
声が震え、歯の根がわない。 寒さのせいではなかった。 がここまで醜悪に、ここまで酷に、の命とをい物にできるのかという、底れぬ恐怖だった。
、私が必に守ろうとしてきた庭の正体。 私がを啜り、義母の罵声を浴びながら支えてきた夫の真実。
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彼は、ただの浮気者ですらなかった。 自分の世と欲のために、障害を持つ義理の弟を罠にかけ、会社と組を欺き、そして今、私からすべてを奪い取って捨てろうとしている、ただの汚い犯罪者だったのだ。
「おい! 登紀子! 何やってんだ、いつまでかかってんだよ!」
玄関のトタン戸が乱暴にき、敏之の鳴り声が夜のを切り裂いた。
私は反射に、類をジッパー袋に戻し、ポリ容器とともにスペアタイヤの窪みに押し込み、カーペットを被せた。 臓が鐘のように打っている。 の奥で、ドクドクと血が逆流する音が響く。
「今……拭きげが終わったところです!」
私は背筋を向けたまま、トランクの蓋をバタンと閉めた。 属のたい触が、のひらに残る。
「トロいんだよ、何やらせてもよ!」
敏之は玄関先から悪態をつき、再びトタン戸を乱暴に閉めてへ戻っていった。
静寂が戻った。 くの国をるトラックの排気ブレーキの音が、く、く、夜空に吸い込まれていく。
私は、自分の両を見つめた。 赤黒く腫れ、油で汚れ、あかぎれだらけの、無力な女の。
だが、そのの震えは、すでに止まっていた。
しみはなかった。 涙など、滴もなかった。 分の悔も、も、すべてが氷点の夜気配ので凍結し、鋭利な刃物へと形を変えていくのを、私は確かにじていた。
良い妻でいるは、今、この瞬に終わったのだ。
私は閉ざされたトランクの鉄板を、もう度だけ、静かに撫でた。