"奪われた十八年の通帳" 第5話
パートにていた運送会社の事務を辞めさせられ、私は、義母の介護と、敏之がで散財した穴埋めのための荷捌き作業に追われるようになった。
それでも耐えてきたのは、いつか敏之が、あの結婚したばかりの頃の優しさをいしてくれるのではないかという、愚かな執着があったからだ。
ガチャリ、と運転席のドアが乱暴にいた。
烈なアルコールの臭気と共に、敏之が乗り込んできた。 その顔は赤黒く充血し、ネクタイは斜めに曲がっている。
「……クソが。せっかくの納会が台無しだ」
敏之は荒々しくキーを捻り、セルモーターをけたたましく鳴らしてエンジンをかけた。 気もそこそこにアクセルをく踏み込む。 古いクラウンは体を軋ませながら、砂利を撒き散らして国号線へと滑りした。
「おい、登紀子」
敏之は方を睨みつけたまま、苛ちを隠そうともせずに言った。
「お、会になんか変なこと吹き込んだんじゃねえだろうな」
「何も言ってないわ。今、初めてお見かけしただけよ」
「ならいい。……ったく、会も焼きが回ったな。あんなボケ老、いつまでもに据えてっから業界がちかねえんだよ。今の代はスピードと効率なんだよ。俺と玲奈ちゃんがやってるみたいにな」
敏之は得げにを鳴らした。
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その横顔を、対向のヘッドライトがく照らしす。
「なあ、お、に帰ったらすぐババアのオムツ替えろよ。昼から替えにってねえんだろ。臭くて部に入れたもんじゃねえんだからな」
「……昼過ぎに度戻って替えたわよ。夕方の便の荷受けがあったから、そのは見てないけど」
「言い訳すんな! 俺がでどれだけ神経すり減らして戦ってきてるとってんだ! 親の面倒くらい、にいる女が完璧にこなすのが筋だろうが!」
敏之はバン、とハンドルを掌で叩いた。 フロントガラスの向こう、暗のに、私たちのむ平のトタン根が見えてきた。
国から本入った、型の待所と産業廃棄物の集積に挟まれた袋。 灯もなく、湿ったの匂いがち込めるその所に、そのは建っていた。
がまると同に、私は助席からりた。 玄関をけると、すえたアンモニアの臭いと、え切った湿気がをつく。
「遅いじゃないか! 登紀子! 喉が渇いてにそうだよ!」
奥のから、静子のかんい、障りな叫び声が響いてきた。
「今、お茶を淹れますから」
私はコートも脱がずに台所へ向かった。 流し台には、今朝敏之がべたカップラーメンの汁がそのまま放置され、茶い油の膜が張っていた。 プロパンガスのを点け、汚れたやかんをにかける。
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敏之は靴を脱ぎ散らかすと、居のこたつにどっかりと座り込み、テレビのスイッチを入れた。
「おい、登紀子。茶なんかでいいから、クラウン洗っとけよ」
「……今から?」
計の針は、夜の半を回っていた。 の気温は、すでに氷点に達しているはずだ。
「当たりだろ。の朝、親会社の連を乗せてゴルフまで送るんだよ。だらけのでけるかよ。灯のでホース引っ張って、タイヤの周りも入りに落としとけ」
敏之はそう言うと、持ってきたセカンドバッグを放りし、こたつのにを突っ込んだ。
「あ、あとよ。トランクの奥に洗用のボロ布が入ってるはずだから、それ使え。滴残すなよ、凍るからな」
私は奥歯を噛み締め、さく「はい」と答えた。
やかんの湯が沸騰し、ピーと甲い笛を鳴らした。 急須に茶を淹れ、プラスチックの吸いみに入れて静子の枕元へ持っていく。 義母は私の顔を見るなり、寝返りを打つこともできないい体を揺すって睨みつけてきた。
「遅いんだよ、グズ! 敏之に捨てられたら、あんたなんか野垂れぬしかないんだからね! もっと甲斐甲斐しく働きなさいよ!」
吸いみを乱暴に奪い取られ、い湯が私のの甲に数滴ねた。 チクリとした痛み。 だが、もう皮膚の覚などとうに麻痺していた。
私は台所の勝からにた。
凍てつく夜が、ドカジャンの隙から容赦なく体温を奪っていく。 の灯がジジジと気な音をてて、砂利のに青いの輪を落としていた。