"奪われた十八年の通帳" 第2話
として扱う、底の浅い傲さが透けて見えていた。
「タライなら、の洗いにあるから」
私がく答えてケースをろすと、玲奈はわざとらしく先をつまんだ。
「ちょっと、奥さん……。、軽油臭くないですか? せっかくの納会なのに、部に油の匂いが充満しちゃうんですけど。敏之さーん、奥さんになんとか言ってよ」
甘ったるくにかかった声で玲奈が呼ぶと、階段をがってきた敏之が、すぐに相好を崩して部に入ってきた。
「おいおい、玲奈ちゃんを困らせるなよ、登紀子」
敏之は玲奈の隣に自然なつきで腰をろすと、彼女のフェイクファーの裾に自分の膝を触れさせた。 そして、私を瞥する。 その目は、の汚れたゴミ袋を見るような、淡で侮蔑に満ちたものだった。
「おは昔から気が利かねえな。トラックの横にずっとってるからがバカになってんだろ。軽油と古タイヤの匂いが染み付いてんだよ。ほら、ケース置いたら邪魔だから、隅っこの子にでも座ってろ。枝豆の残りでもってりゃいいんだから」
詰所にいた数の古参ドライバーたちが、気まずそうに目を逸らした。 彼らはっている。 敏之が遊んでいる、真の未にタイヤチェーンを巻き、にまみれた荷台を清掃し、急ぎの荷物をフォークリフトで積み込んでいたのが、誰であったかを。
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だが、誰もをかない。 配の決定権を握っているのは敏之であり、逆らえば来から割のわない距ピストン便に回されることをっているからだ。
「……わかりました」
私はを殺した声でそれだけ言い、壁際に押し込まれたパイプ子に腰をろした。 膝のに置いた自分の両を見る。 指の節くれは太く曲がり、爪の隙には、いくら軽油で擦っても落ちない黒いグリスが染み込んでいる。
玲奈が甲い笑い声をあげ、敏之の肩をパシッと叩いた。
「敏之さん、ひどーい! でもホント、奥さんって活ありすぎっていうか、がないですよねぇ。うちのパパでも、ママにはもうちょっとマシな着せてますよ?」
「比べるなよ。こいつはこれでいいんだ。どうせ誰も見てねえんだから」
敏之はヘラヘラと笑いながら、玲奈が差ししたコップのビールを気に煽った。
私の胃のあたりに、くたい鉛の塊が沈んでいく。 このが半ほどからい関係にあることは、疾うにっていた。 敏之のスーツのポケットからてくる、速のサービスエリアで買ったペアのキーホルダー。 夜に枕元でくる、玲奈からのメッセージ。 そして何より、敏之の首筋から漂う、この部を満たしているバニラの。
だが、私は何も言わなかった。
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、そうしてきたように。 私が騒ぎてれば、で待つ敏之の母が発狂する。 「誰の稼ぎで飯をわせてもらっているんだ」と、子から皿を投げつけられる。 その嵐をやり過ごすための唯の方法は、自分のを殺し、ただの背景になることだった。
午を回り、納会は本格な酒宴へと移っていった。 煙の煙で井の蛍灯がく霞み、酔った男たちの号にい笑い声がトタン根を震わせる。
「おい、静かにしろ! 田会がお見えになったぞ!」
誰かの鋭い声に、詰所の空気が瞬で張り詰めた。
引き戸がき、濃紺のオーバーコートを着た初老の男性が入ってきた。 田誠。 この臨帯の貨物運送業者を取り束ねる「湾岸物流協同組」の最顧問であり、親会社である港運の元代表取締役だ。 叩きげの荒くれ者たちを束ねてきたそのは鋭く、を過ぎた今でも、彼の言で請けの命運がされると言われていた。
「会、お疲れ様です! わざわざをお運びいただき、恐縮です!」
敏之は子からび起きると、揉みをしながら擦り寄っていった。 その背は、卑屈なほどに丸まっている。 玲奈もまた、コートの襟を直しながら、目遣いで敏之のろに控えた。
「ああ、いい。座ってくれ。毎のことだからな。現の顔を見に来ただけだ」
田会はく響く声で応じ、座の丸子に腰をろした。 敏之が慌ててしい清酒の徳利をに取り、お猪に酒を注ごうとする。