"夜勤明けに締め出された私――15分後の「さようなら」" 第2話
差しされたしい鍵
「柏さん、今どこ?」
相馬師は、昼から入れるホテルをらないかと尋ねた私に、まずそう聞いた。病院へ戻る途だと答えると、正面玄関の待で待つように言われた。
りてきた師は、私の説を遮らずに聞いた。の鍵を替えられたと話すだけ声がさくなり、私は隣の空席に目を落とした。
「あなた、次の勤務は?」
「あさっての勤です。は休みで」
「じゃあ、まず眠ろう。次のことは起きてから考えればいい」
師は駅のホテルに話を入れ、すぐ使える部を確認してくれた。私は自分の名で予約を取り、仕事用の鞄を抱えてタクシーに乗った。
部に入っても、しばらく靴が脱げなかった。入に鍵を置くさな台があり、そのにっているうちに、誰にも許を求めずドアを閉めてよいことがようやく分かった。
顔だけ洗ってベッドに横になると、次に目をけたには午だった。
廊は静かだった。では私が横になる頃に掃除がき始めた。頼んで音を止めてもらうより、先に掃除を済ませた方がい。そううようになってから、帰宅してすぐ眠ることを諦めていた。
枕元の携帯には、拓也からいくつも連絡が入っていた。
《母さん、親戚に何て説するんだってってるぞ》
《ホテルにいるの? そんな、無駄だろ》
広告
私はホテルに滞を延ばせるか確認してから、駅ビルで着とシャツ、歯ブラシを買った。実はすでに放していて、すぐ帰れる部はなかった。それでも、着替えを自分で選んでかごに入れているだけは、指が迷わずいた。
器売りで青い湯みが目に入り、が止まった。母から譲られた湯みも、あんなだった。あるなくなって、義母は「欠けていたから捨てた」と言った。欠けていなかったと答えた私に、い品を差しした。
あの、私は代わりの品を受け取り、礼まで言った。今は何も買わずに売りをれた。まだ、置く所がない。
翌朝、師から教わった期賃貸の管理会社へ話した。病院のくに空があり、具付きで9万6000円。契約条件を確認し、見学を申し込んだ。
私は7、毎1に10万円を義母の指定座へ振り込んでいた。費や費など、の活費として決めた額だ。しい部では賃のほかにもおが掛かる。携帯の計算で必な支をし、元の預も確かめた。
働き続ければ、払える。
そののうちに必な続きをめ、部を借りた。洗面台に買った歯ブラシをてると、ホテルから持ってきた袋が1つ空いた。
次の勤を終えた夕方、拓也と病院くの喫茶で会った。彼は向かいの席に座るなり、さな封筒をテーブルへ滑らせた。
広告
「ほら。しい鍵。これでいいだろ」
封筒のからのがのぞいていた。私は自分の鞄を膝に置いたまま、それを見た。
「母さんも、もう帰ってくればいいって。いつまでホテルにいる気だよ」
「部を借りました」
拓也のが封筒ので止まった。
「相談もなしに?」
「帰れる所が必だったので」
「だから、今こうして鍵を持ってきただろ」
彼は封筒をさらに押した。底がコーヒーカップの受け皿に当たり、さな音がした。私は受け皿だけをへかした。
「受け取りません。あのには戻りません」
拓也がこちらの顔をのぞき込んだ。ようやく私の言葉のを確かめようとしている。その線を受けても、今度は謝らなければとはわなかった。
「婚について、話しいたいです」
「鍵ぐらいで?」
「鍵を変えて、私をにたせたあなたと、これからも暮らすかどうかの話です」
彼はをき、内を見回してから声を落とした。
「母さんと話してくる。だから勝に決めるなよ」
「私に関わることは、私と話してください」
私は自分の代を払い、をた。席に残した封筒を、拓也が慌てて元へ引き寄せるのが見えた。
部へ帰る途、ふみ子さんから話があった。町内会の連絡で番号を交換していた、向かいののだった。
「あの朝のこと、ずっと気になっていて。
今、お話しして丈夫?」
私は自転を止めた。さんは私の体調を確かめてから、しためらいがちに続けた。
「鍵さんのね、のの夕方には来ていたのよ。あなたが病院へていった、そのに」