"夜勤明けに締め出された私――15分後の「さようなら」" 第1話
夜勤けの15分
玄関の鍵が回らなかった。
差し込み直すと、鍵穴の周りだけが朝にくった。昨まであった細かな傷がない。私は鞄を肩に掛け直し、インターホンを押した。
「お母さん、鍵がかないんですけど」
「鍵、変えたわよ」
スピーカーから聞こえた義母の声は、買い置きの洗剤を替えたと同じ調子だった。奥で湯みを置く音がして、私はようやく、故障ではないのだと分かった。
「どうしてですか。けてください」
「昨の態度を反省しなさい。がえたら謝りに来ればいいでしょう」
朝8。私はの17から翌朝730分まで、病院にいた。申し送りを終え、着替えて、自転で坂をってきたところだった。肩には鞄の紐がい込み、靴のでがむくんでいる。
「夜勤けなんです。で休ませてください」
「だから、まず謝りなさいって言ってるの」
通話が切れた。私は指をせず、消えたランプを見つめた。
結婚して7、このの玄関で締めされたことはなかった。35歳になった今朝も、ここまで帰れば横になれるとっていた。そのつもりで夜のナースコールに応じ、け方の記録を終えた。
昨、勤の台所で、義母の悦子は親戚の集まりの料理を頼んできた。煮物と赤飯と吸い物を、翌朝9までに用してほしいという。
夜勤はのから決まっていた。
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蔵庫の脇には、私自の予定だけをいた勤務表も貼ってある。急には休めないと答えると、義母は「族より仕事なのね」と言った。
「仕事のことまで命令される筋いはありません」
あので初めて、そう返した。勤のが迫っていて、そのは言い争う余裕もなかった。
私は勝へ回った。こちらも閉まっている。居の窓には内側から錠が掛かり、レースのカーテンの向こうでテレビのだけがいていた。窓を叩こうとをげて、やめた。いつも私が拭いているガラスに、自分の疲れた顔が映っていた。
夫の拓也に話をかけた。呼びし音が3回鳴って、ようやくつながる。
「拓也さん、けて。鍵が変わってるの」
「まず母さんに謝れば」
声のろで、テレビの音がした。カーテン越しに聞こえる音と、話の奥の音がなった。このはのにいる。
「あなたもってたの?」
「俺も賛成したよ。1もにいればもえるだろ」
の柱にをつくと、えたが掌に触れた。夫は37歳で、今は会社を休むと言っていた。私が働いているに眠り、朝になって起きて、私が帰るのを待っていたのだろうか。
「昨夜から病院にいたんだけど」
「それと母さんへの態度は別だろ」
画面の刻は815分になっていた。私は15分、このの周りを歩き、をげる理由を探していた。
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もし謝れば、義母は鍵をくれるだろう。私は2階へがり、着替えるに洗濯物を集め、夕の支度を気にしながら布団に入る。次に何かを断れば、またこの玄関で待たされるかもしれない。
「聞いてるのか、真由」
夫の声に、私は顔をげた。鞄を玄関の脇へ寄せていたことに気づいた。まだ入れてもらうつもりでっていた。
私は鞄を持ち直した。
「そうですか……では、さようなら」
「は? どこくんだよ」
答えずに通話を切った。聞受けから朝刊が半分ていた。いつもなら抜いて卓へ運ぶが、そのは触らなかった。
自転を押してをると、向かいのさんが窓からこちらを見ていた。私は会釈だけして坂をった。背では、最まで玄関のく音がしなかった。
角を曲がってから、歩の端に自転を止めた。鞄のには財布と携帯話、そのの帳がある。私は帳をき、帰宅した刻と、言われた言葉をいた。病棟で働くようになって13、曖昧なままにせず記録することだけは、体が覚えていた。
ペンをしまったところで、携帯話が震えた。
《夕飯どうする? それまでには帰ってこいよ》
その文面を何度か読み、私は病院の番号を探した。拓也は、私が今どこで休めるのかを聞かなかった。