"墓前の少女は「娘は生きてる」と言った" 第10話
「ええ。ちゃんとべていますよ」
「よし」
ひまりは腕を組み、のように頷いた。
咲が笑った。
私も笑った。
そのままで学へ向かった。のにはしい制やランドセルの子どもたちが集まり、写真を撮る親たちの声がき交っている。咲は混みので何度かを止めたが、今度はろへ戻らなかった。
ひまりがをくぐる直、突然こちらを振り返った。
「ってきます!」
咲はを振った。
「ってらっしゃい」
たったそれだけのやり取りをするために、この親子は7かかったのだ。
入学式を終えた午、私はで寺へ向かった。墓から咲の名をすための続きはすでにめてあり、材とも話を済ませていた。7そこにあった娘の名を見るのも、これが最になるかもしれなかった。
墓へ着くと、てにい野のを差した。今は咲でもひまりでもなく、私が持ってきたものだった。夫の名の隣に刻まれた娘の名へを触れると、はの差しを受けてし温かかった。
「いこと、預かってくれてありがとうね」
私は墓へ言った。
7、ここで何度同じことを聞いただろう。
ご飯はべているの。
寒くないの。
苦しくないの。
お母さんのこと、忘れてないの。
返事は度もなかった。
けれど、もうここで聞く必はない。
へ帰れば本に聞ける。
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夕方、自宅の茶のには咲とひまりがいた。ひまりは学でもらった教科を冊ずつ広げ、咲は名をくための油性ペンを片に、違えないよう慎に表へ向かっていた。その当たりの景を、私は台所からしばらく眺めていた。
「お母さん、何してるの?」
咲が気づいた。
「別に。見ていただけ」
「変なの」
そう言う娘の声まで懐かしかった。
夕のあと、咲が茶のの柱に掛かっていた古い写真をした。桜ので私と咲が並んでいる、あの枚だった。代わりに先撮った写真を額へ入れた。
真んには赤いランドセルを背負ったひまり。
そのろに咲と私。
とも、目のに同じさなほくろがあった。
昔の写真は捨てなかった。咲が7しまっていた菓子缶へ入れ、通ののへそっと置いた。忘れるためではなく、そこまで歩いてきたことを忘れないためだった。
窓のでは、遅咲きの桜がに散っていた。
「から、お墓のはどうする?」
咲が尋ねた。
私はし考えた。
命という呼び方は、もうわない。
娘がくなったではないのだから。
「あの、あなたたちがき直したでしょう」
私は言った。
「だったら、族が集まるにしましょうか」
咲が笑い、ひまりもが分からないまま緒になって笑った。
私は茶箪笥からつの湯呑みを取りした。
そのには、7伏せたままだった若の器もある。湯気の向こうで娘と孫が話しているのを見ながら、私はようやく分かった。
が帰ってくる所というのは、墓でも戸籍でもない。
名を呼べば返事があり、「ご飯はべたの」と聞ける所なのだ。
「咲」
「なに?」
「ひまり」
「はーい」
から返事が返ってきた。
それだけで分だった。
7、私は娘の名をへ預けた。
そして今、その名はもうのにはない。
ちゃんと、きているのところへ戻ってきた。