"軍艦島、命をつないだ白い飯" 第2話
斜坑のに揺られ、ケージに乗り換え、暗のを今度はへ向かってがっていく。
急激な移に、の奥が詰まるような覚がする。
それでもの空気がづいてくると、男たちの顔はしずつ緩んだ。
ケージをりた瞬、の匂いがした。
たったそれだけのことで、男はようやくの半分が終わった気がした。
まず向かうのは坑夫用の浴だった。
炭に覆われたまま社宅へ帰るわけにはいかない。男たちはを脱ぎ、黒く汚れた体を洗い、浴槽へ入る。
ただし、端島の呂には本の町とは違う事があった。
島には川がない。
湧きもない。
広い貯池を造るさえない。
方をに囲まれているのに、めるはほとんどしないのである。
い、活に使う真は対岸からで運ばれてきた。
が荒れればは来ない。
が来なければ、は増えない。
そのため、坑夫が体を洗う呂にもが使われた期があった。汗と炭を落とすためにの浴槽へ入り、最に体へかけるがり湯だけは真にする。
男は浴槽へ肩まで沈んだ。
湯のは、次々に入ってくる坑夫たちの炭で濁っていく。さっきまで気厳禁の坑内にいた男たちが、ようやくへ戻った解放から煙にをつけることもあったという。
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男も煙を本くわえた。
く吸う。
肺へ入ってくる煙をうまいとうのか、ただきてへ戻った証しだとうのか、自分でも分からなかった。
隣にいたの坑夫が言った。
「今は、遅れとるらしかぞ」
男は煙を持ったまま顔を向けた。
「ですか」
「もやけど、定期も怪しか。がよる」
端島に暮らす者にとって、気の話は単なる挨拶ではない。
がい。
波がい。
その言葉のろには、べ物が来ないかもしれない、が来ないかもしれない、という現実がくっついていた。
男が子どもの頃にんでいた本の町では、がればへくのが面倒になる程度だった。
端島では違う。
が荒れれば、島全体の暮らしが細くなる。
社宅の各庭では、限られたを桶や容器へ受け、それをの活に振り分けた代があった。み、炊事、洗濯、体を洗う。その杯杯に順番があり、米を研いださえ無駄にできなかった。
昭32、対岸から底を通してを送る底が備されるまで、その苦労は特にきかった。
料はい。
賃の負担も軽い。
しかし、を握って蛇のにったところで、そのものがなければ買うことはできない。
端島では、その矛盾が常だった。
浴をた男は、濡れた髪をタオルで拭きながら社宅へ向かった。
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途、島内の「座」と呼ばれた商のを通る。
さな岩の島とはえないほど、が並んでいた。
魚を扱う。
野菜を売る。
料品。
雑貨。
煙。
堂。
酒。
漬物。
対岸から届いた商品が所狭しと並び、料のなどはの声が途切れなかった。
男は魚のでを止めた。
妻に頼まれていた魚を買うつもりだった。
ところが、先はいつもよりらかに品物がなかった。
「今はこれだけですか」
の男がの方を顎で示した。
「午のがまだ来とらん。来ても全部あるか分からんぞ」
男は残っていた魚を尾買った。
決してくはなかったが、それを迷うほど料がないわけでもない。
財布にはがある。
だが、の棚に物がなければ買えない。
端島で暮らしていると、より先にを見る癖がついた。
社宅へ帰ると、妻が台所で米を研いでいた。
「、遅れてるらしいぞ」
「ってる。百もほとんど空っぽだった」
「飯は?」
男が聞くと、妻は振り返った。
「あなたの分くらい、ちゃんとありますよ」
その声に、男はし笑った。
命がけで働いた、結局いちばん欲しくなるのは、きなでもしい化製品でもない。
湯からがった体へ流し込む。
そして腹を満たす、温かい飯だった。
ちゃぶ台のには、いご飯、焼き魚、青菜のおひたし、噌汁、それに漬物が並んだ。
見た目だけなら、本のどこにでもある夕だった。
だが、その品品を端島まで運んできたを考えれば、決して当たりではない。