"百円だけの香典" 第1話
昭344、群馬県部のあいにある町では、解けが細い用を勢いよく流れていた。商からしれた所には造の々と畑が続き、その角に、油と鉄の匂いが染みついたさなが建っていた。板には、のでのくなった文字で「鉄」とかれている。
そのを30守ってきた源吉が、58歳でくなった。数から胸を悪くしていたものの、くなる3までへ顔をし、若い職の旋盤の使い方にをしていたという。従業員17のさな町だったが、農具の修理から織物の械部品まで何でも引き受け、「困ったはへけ」と言われるほど町ではられただった。
通夜の、午を過ぎた頃からのには弔問客が途切れなくなった。黒い喪を着た取引先の主、仕事着のまま駆けつけた職、消防団の法被を羽織った男たち、いから自転でやってきた老までいる。妻のトヨは黒い着物の襟元を何度も直しながら、玄関と畳の座敷をき来していた。
「こんなに来てくださるなんて、お父さんもんでいるでしょうね」
トヨが所の女性にそう話した直、玄関先で男たちのざわめく声がした。源吉の弟である栄作が、柱に貼られたいので腕を組んでいる。
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その周囲には親戚が数集まり、皆そろって納得できない顔をしていた。
いには、太い墨でこうかれていた。
《御典は世帯百円まででお願いいたします。御返しはいたしません》
番には、男・健の名があった。源吉の、とのことを任されることになった29歳の健が、の夜に自分でいて貼ったものだった。
「おい、健。これはおがいたのか」
栄作に呼ばれ、奥の座敷からてきた健は、を見てから静かに頷いた。栄作はもう度「百円?」と聞き、健が「はい」と答えると、みるみる顔を赤くした。
「兄貴の葬式だぞ。町の者がこれだけ来てくださってるのに、百円しか受け取らないなんてどういうつもりだ。相の顔を潰す気か」
「父がきているから言っていました。自分の葬式は簡単にしてくれ、典返しなんか用しなくていいって」
健が説しても、栄作は納得しなかった。きているの世話と本当に葬式をすでは違う、葬式は本だけのものではない、が何も積みねてきた付きいがあるのだと、次々に言葉をねた。
周囲の親戚も栄作に同調した。
「源吉さんだって、今まで様の葬式にはちゃんと包んできたでしょう。もらったものを返すのだって礼儀ですよ」
「ほどのが百円なんていたら、町からけちだと言われますよ」
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最の言葉に、トヨがわずかに目を伏せた。、源吉の妻として町の付きいを守ってきたトヨには、親戚たちの言っていることも分かっていた。
の押し入れには何冊もの典帳がある。いつ、誰ので葬式があり、いくら包んだのか。逆に自分たちの祝い事や法事で誰から何を受け取ったのか、トヨはそれを几帳面に記録してきた。
「健」
トヨが慮がちに息子を呼んだ。
「百円じゃなくてもいいんじゃないかい。お父さんだって、今までちゃんと様には包んできたんだよ」
健はすぐには答えられなかった。母が反対することは予していたが、実際に言われると胸がくなる。
「分かってるよ」
「だったら今度は、そのたちが返してくださる。それの何がいけないんだい」
健は玄関のいを見た。父がににしていた言葉を信じて貼ったものだったが、「百円」という額まで父が確に命じたわけではない。町でわれていた活運の集まりから帰った父が、「典なんて百円くらいで分だ」と何度も話していたため、健がそれを形にしただけだった。
栄作もそこを見抜いていた。
「兄貴が本当に百円にしろと言った証拠はあるのか」
「証拠なんてありません」
「だったらせ。おの考えを兄貴の遺言みたいに扱うな」
健は返事をせず、いを見た。確かに、自分は父の言葉を都よく使っているだけなのかもしれないという迷いが、胸のどこかに残っていた。