"じいちゃんの遺言" 第8話
まだ顔は悪いが、瞳にはし力が戻っている。 「起きたのか。まだ無理すんな」 「だいぶ楽になりました。あの、本当に、ありがとうございました」 彼女は再び、々とをげた。 「いいって。座れよ。湯でもむか?」 俺は子を勧め、ストーブのにやかんを置いた。
静かな部に、ストーブのがパチパチとはぜる音だけが響く。俺たちは向かいい、温かいマグカップを両で包み込んだ。 「私は、美咲と言います」 ぽつりと、彼女が語り始めた。 「あので、吹が過ぎるのを待っていました。本当は、おじいちゃんとのいがあるこのを目指していたんです。でも、がひどくて、あそこまでたどり着くのが精杯で……」 「わざわざこんなに何しに来たんだ。命を捨てる気だったのか?」 俺がし厳しい調で聞くと、美咲は首を横に振った。 「逃げてきたんです。あの子たちを連れて、誰にも見つからない所へ」 「逃げた? 誰からだ?」 「夫です」 「夫?」 「はい……。夫の事業が失敗して、額の借ができてしまって……」 美咲のが、マグカップをくなるほどく握りしめる。 「最初は優しかった夫も、次第に荒れていきました。お酒をんでは、私や子供たちに当たるようになって……。ある、子供たちが怪をさせられそうになって。それで、何も持たずに逃げてきたんです。あの子たちだけは、絶対に守らなきゃって」
広告
彼女の声が震える。 を越えてきた理由。それはまさに、が子を守るための命がけの逃避だったのだ。あの子たちの異常な怯え方も、これで腑に落ちた。
「変だったな」 「く当てがなくて……夫が昔、仕事で使っていたあのなら、誰も追ってこないとって。でも、崩で根が崩れてしまって、料も尽きて……」 美咲の目から、抑えきれない涙がこぼれ落ちた。 「ダメな母親です。あの子たちを巻き込んで、あんな寒いいをさせて……ので、いっそこのままのうとったこともありました」
俺は黙って聞いていた。 かける言葉が見つからなかったからではない。彼女の抱える圧倒な孤独と、絶望のさが、痛いほど分かったからだ。
「俺もだよ」 「え?」 「俺も逃げてきたんだ。都会の関係が嫌になって、全部捨てて、このに引きこもった」 俺は自嘲気に笑った。 「誰とも関わりたくねえ、1がいい。そうってた。でもよ」
俺は、布団の向こうでを寄せって眠る、双子の寝息にを澄ませた。 「あいつらが来て、俺の作った飯をって、顔をぐちゃぐちゃにして笑ったのを見たら……悪くねえなってったんだ。俺の料理にも、まだがあるのかもって」 俺は美咲の目を真っ直ぐに見た。 「美咲さん。あんたはダメな母親じゃねえよ。あんな猛吹の、自分の飯を抜いてまで子供を守り抜いたんだ。
広告
派な母親だ」
「うぅ……っ、ああぁ……」 美咲は両で顔を覆って、子供のように声をげて泣いた。 俺は何も言わず、ただストーブのを見つめていた。 彼女が抱え込んできた恐怖としみの涙が枯れるまで、夜は静かに更けていった。
【第3部】(最終部)をお届けします。 孤独だった男が、温かい卓としい族の絆を取り戻すまでの結末です。
第3章:解けの、最のスパイス
翌朝。昨夜の猛吹がまるで嘘のようにり、窓のには目を細めるほど眩しい世界が広がっていた。 つない青空からり注ぐ朝が、真っな面をキラキラと照らししている。
「おじさん、見て! だるま!」 庭から、元気いっぱいの律の声が聞こえる。 「りっちゃん、おじさんの靴取れちゃうよ!」 ブカブカの靴を履いてよろける律を、紬が笑いながら追いかけている。昨夜にかけていたとはえないほどの、子供特の凄まじい回復力だ。 俺は、縁側で湯気のつコーヒーをみながら、その景を眩しそうに眺めていた。隣には、し頬に赤みが戻った美咲の姿がある。
「本当に、何とお礼を言ったらいいか……。千葉さんがいなければ、私たちは確実に命を落としていました」 美咲が改めて々とをげる。 「礼なら聞いた。それより、これからどうするんだ?」 俺が静かに聞くと、美咲はし困ったように俯き、膝ので両をく握りしめた。
「も壊れてしまいましたし、く当てがなくて……。