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"十八年間、壁の中にいた妻" 第10話

起訴となり、再び介護療養病に戻された静枝の元を、俊平が訪れた。

ぶりに、きりで対峙した母と息子。

子に座る静枝は、さく縮こまり、震えるで息子のを掴もうとした。

「俊平……俊平、許しておくれ……。母さんは、おを守りたかったんだよ……。お殺しになるのが怖くて……」

俊平は、母のを静かに、しかし決定たさで払いのけた。

その瞳には、もはやりも涙もなかった。

ただ、絶対な断絶のだけが広がっていた。

「母さん」

俊平は、く、乾いた声で言った。

「あんたが守りたかったのは、俺じゃない。殺しの母親になりたくなかった、あんた自だ」

静枝の顔が、絶望に歪む。

「あんたのそのな『』が、綾乃をなせたんだ。あんたが警察に本当のことを言っていれば、あの、綾乃はすぐに捜索されて、たい底にも沈んだままにならずに済んだんだ。俺も……あいつをちゃんと取ってやれたんだ」

「俊平……頼むから、そんなことを言わないでおくれ……!」

「俺の母親は、んだ」

俊平は背を向けた。

「もう度と、俺のに現れるな。あんたの顔は、度と見たくない」

「俊平! 俊平ぉッ!」

老母の狂乱の叫びを背に受けながら、俊平は度も振り返ることなく、病い扉を閉めた。

それが、の最の会話となった。

静枝はその、急速に認症をさせ、やがて息子の名すら呼ぶことができなくなった。

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だが、識がかすかに戻る瞬、彼女は壁に向かってわせ、誰も聞き取れない謝罪の言葉を呟きながら、涙を流し続けたという。

彼女には、自らが作りした罪悪という名の、ぬまでられない永の牢獄が残されたのだった。

事件は、『諏訪・壁ののバッグ事件』として、全国のメディアで連トップニュースとして報じられた。

捜査における警察の杜撰ない込み、な「族の庇護」がした最悪の劇として、激しい社会議論が巻き起こった。

これを契に、警察庁は期未解決事件の専任捜査班の権限を幅に化し、者届が提された際の初捜査の見直し、およびDNA登録の期義務化に向けた法改正の議論が本格にスタートした。

世論は沸騰し、そしてやがて、しいニュースの波に押し流されて化していった。

だが、残された俊平の胸のの穴は、決して埋まることはなかった。

たい、諏訪内の斎で、篠原綾乃の密葬が静かに執りわれた。

という歳を経て、ようやく実の両親の元へ帰ってきた娘の遺骨。

老いた両親は、さな骨壷を抱きしめ、ただただ声を詰まらせて泣き崩れていた。

俊平は、遺族席の末席で、静かにげ続けていた。

葬儀が終わった、俊平は、再発によって完全に更となった、かつてのの跡へと向かった。

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り、綺麗に均された茶面。

そこには、母と暮らし、綾乃と活を送り、そして獄を過ごしたの痕跡は、何つ残っていなかった。

俊平は面にしゃがみ込み、からを覗かせていた、個のさな赤レンガの破片を拾いげた。

れの壁に使われていた、あのレンガだった。

俊平はジャンパーのポケットから、事現から持ってきたさな槌を取りした。

そして、レンガに向かって、力任せに槌を振りろした。

ガツン、と乾いた音が響く。

度、度、度。

赤レンガは々に砕け散り、赤茶末となってに吹きばされていった。

の呪縛。

母への憎しみ。

へのみ。

そして、自分自へのやりのないり。

そのすべてを、俊平はその々に打ち砕いた。

「……終わったよ、綾乃」

俊平はがり、空を見げた。

の切れから、の澄んだ陽が射し込んでいた。

俊平はに乗り、諏訪へと向かった。

畔の岸。

、綾乃がタクシーをり、最の瞬を過ごした所。

によってしくて替えられた製のベンチに、俊平は腰をろした。

コートのポケットから、警察から返却された、あの茶のボストンバッグに入っていた綾乃の記帳を取りす。

科学捜査によって丁寧に修復されたそのページを、俊平は指先で優しく撫でた。

『あなたに会えて、本当によかった』

のページに刻まれたその言葉を、俊平は声にして読んだ。

「俺もだよ、綾乃」

たい面を渡るが、俊平の頬を撫でていく。

「俺も……お会えて、本当によかった」

きにわたり、真実はたい壁のに閉じ込められていた。

しかし、どれほど分いコンクリートも、どれほどい歳も、彼女が最に遺したを、永に埋もれさせることはできなかった。

の波が、夕を受けてキラキラと黄に輝いていた。

俊平は記帳を胸にく抱きしめ、ゆっくりとがった。

、あの夜の暗で止まったままだった俊平の計の針が、いま、静かに、そして確かにき始めていた。

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