"家出と呼んだ警察を私は許さない" 第7話
僕は今、本からくれたアメリカで、別の名を与えられ、別としてきています。 僕を連れったたちのは、あまりにもく、かったのです。 ですが、お母さんへのいだけは、度だって奪われたことはありません。 どうか、お体を切にしてください。僕はい空のから、いつもお母さんの幸せを祈っています。
お母さんの息子、航平より』
「航平……航平っ……!」
便箋を胸に押し当て、は畳のに突っ伏した。 きていた。 あの子は、きていたのだ。 たいのに眠っているのではなく、の底に沈んだのでもなく、い異国の空ので、歳のになって、きていてくれた。
「黄の崩れていない目玉焼き」 「ねんねんころりよ」 それは、世界でと航平のふたりだけしからない、魂の暗号だった。 どんな偽者にもけるはずのない、真実の記憶の欠片。
何度も、何度も読み返した。 涙が落ちて文字が滲まないよう、顔をげ、を押し戴くようにして貪り読んだ。 の苦痛と孤独が、その枚のいによって、瞬にして報われたような気がした。
だが、夕暮れが迫り、しずつ静さを取り戻すにつれ、の胸にたな疑問が湧きがってきた。 なぜ、息子は「探さないでくれ」といたのか。 「僕を連れったたち」とは誰なのか。
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そして、なぜ今になって、もの沈黙を破ってを寄越したのか。
そのの夕刻、古い引き戸を叩く、慮がちな音がした。 「森さん……さん、おいでになりますか」
戸をけると、そこにっていたのは、同じの、藤原チヨだった。 チヨは数からい病を患っており、抗がん剤の治療のせいで髪は抜け落ち、体は骨と皮ばかりに痩せ細っていた。 が届いたという噂は、くも狭いを駆け巡っていたらしい。
チヨはにがると、が止めるもなく、コンクリートの叩きのに両膝をつき、々とをに擦りつけた。
「チヨさん、何をしとるん! 体に障る、がりなさい!」
「さん……堪忍して。堪忍してください……っ」
チヨのから漏れたのは、擦り切れたような懺悔の嗚咽だった。 顔をげようとしないチヨの肩が、激しく波打っている。
「私な、もうくないんよ。医者からも、今のは越せんかもしれんと言われとる。ぬに……この世をるに、あんたにこれだけは言わんと、獄に落ちても落ちきれんとって……」
「チヨさん、体何の話なん」
チヨは震える両で自分の顔を覆いながら、、胸の底に沈めていたを吐きすように語り始めた。
「あの……航平ちゃんが消えた。私、嘘をついたんや」
の体が、寝静まったののように直した。
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「嘘……?」
「『らない男のと笑ってバスに乗った』って、交番の巡査にも言うたあの証言……全部、嘘やったんよ」
「……どういうこと」
「私、あの男をっとったんや。町で何度か見かけたことのあるやった。郊のきな養護施設……『双葉育園』の、神園やったんよ」
神。 その名がた瞬、のの奥で、何かが激しく弾けんだ。 あの、物腰の柔らかい、慈い篤志。 のを握り、「決して諦めてはいけません」と微笑みかけた、あの聖者。
「神園が……航平を?」
「夕方、バスので、航平ちゃんが神にを引かれてに乗せられるのを見たんや。航平ちゃん、泣いとった。嫌がって、をバタバタさせとった。でも……神が私に気づいて、からりてきて、私のに分い封筒を握らせたんよ」
チヨの涙が、の埃を黒く濡らしていく。
「には、万円が入っとった……。『見なかったことにしてくれ。この子はもっと裕福なへ養子にくんだ、そのほうがこの子の幸福のためなんだ』って、神はそう言った。私……あの、夫をくしたばかりで、子供をわせるがどうしてもらんかったんよ……! その万に目が眩んで……警察には、笑って自分からバスに乗ったって……そう言うてしもうたんや……!」
狭い玄関に、チヨの咽び泣く声だけが響いていた。 を吹き抜けるが、すきまとなって障子をガタガタと揺らす。
は、ち尽くしたままかなかった。 拳をく握りしめすぎて、爪がのひらにい込み、血が滲んでいた。