"十二年前、泥水に捨てられた私" 第15話
神崎の子供たちは、それぞれのに向かって健やかに、そして力く羽ばたいていた。
女の紬は、国内最難関の国学医学部に現役で見事格を果たした。
かつて「病できられない」と罵られた極未熟児の女は今、将来児科医となり、かつての自分のように苦しむ子供たちを救うという崇な志を抱いて勉学に励んでいる。
男の陸は類まれな体能力とリーダーシップをさせ、Jリーグの豪ユースチームでキャプテンを務めるまでに成した。
次女の音はの名音楽院への留学が決まり、若きピアニストとして国際コンクールで次々と栄冠をにしていた。
ものづくりが好きだった次男の湊は、芸術学のデザイン科で学び、独自の性で描く絵画が若登竜の賞を受賞。
そして末っ子の結菜も、学で徒会を務めるほど聡で活発な女へと育っていた。
の気配が濃くなってきた、ある曜の午。
久しぶりに族全員の予定が揃った神崎は、かつて圭吾が奈緒と紬を連れて通った、あのいの公園へとピクニックにやってきていた。
どこまでもく澄み渡る青空の、犀の甘いりがに乗って運ばれてくる。
芝のに広げられたきなシートので、学になった陸が、奈緒の作ったサンドイッチをで頬張った。
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「やっぱり母さんの作る卵サンドは世界だな! どんな級レストランの料理もこれには勝てないよ」
「もう、陸は袈裟なんだから」
奈緒は目を細めて笑いながら、魔法瓶から温かい茶をカップに注ぎ分ける。
し目元に渋いの皺を刻み、髪が混じり始めた圭吾が、そんな子供たちの姿を眩しそうに、そしてい誇りを込めて見つめていた。
すでにグループの経営は信頼できるたちに譲り、圭吾は会職を歩退いて、族と過ごすを何よりも優先していた。
「みんな、本当にきくなったな」
圭吾の静かな呟きに、紬が優しく微笑みかける。
「お父様とお母様が、私たちを信じて、たくさんのを注いでくださったからです」
そのだった。
楽しかった午の空に、急に暗いがち込め、ポツリ、ポツリとたい雫が芝を濡らし始めた。
の通りだった。
「わあ、がってきた!」
結菜が空を見げて声をげる。
周囲でピクニックをしていたのグループは、慌ててシートを畳み、や駐へと駆けで逃げしてった。
だが、神崎のは、誰として慌てて逃げそうとはしなかった。
々の葉が粒を弾く優しい音を聞きながら、彼らは空からり注ぐ恵みの雫を、楽しむように静かに浴びていた。
など、しも怖くはなかった。
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かつて奈緒を打ちのめしたあの砂りの嵐に比べれば、このは、を潤す祝福のシャワーに過ぎなかったからだ。
やがて、夕ちは嘘のように引いていった。
の空のが裂け、燃えるような茜の夕陽が射し込んだ瞬――。
空の端から端を渡るようにして、巨で鮮やかな、の虹が架かった。
「見て! 虹だよ!」
湊が指を差して叫んだ。
公園に残っていた々が、その圧倒な美しさに息を呑み、斉に空を見げる。
奈緒はそっと、隣に座る圭吾のに自分のをねた。
圭吾もまた、そのを温かく、力く握り返してくる。
言葉などいらなかった。
の歩んできた軌跡のすべてが、そのの温もりのに宿っていた。
奈緒の脳裏に、ふとのあの嵐の夜が蘇った。
のにいつくばり、たいに取り残され、絶望のあまり界を塞いでいたあの。
あのの自分には、空を見げる余裕など微もなかった。
世界は永にたく、暗いのに閉ざされているのだと信じ込んでいた。
だが、違ったのだ。
「……お母様、虹、本当に綺麗ですね」
いつのにか隣に座っていた紬が、奈緒の肩にそっと寄り添った。
奈緒はしい女の柔らかな黒髪を優しく撫でながら、からの微笑みを浮かべて答えた。
「ええ、本当に綺麗ね。……でもね、紬。激しいがったからこそ、空は洗われて、こんなにも綺麗な虹が架かるのよ」
その言葉には、奈緒が歩んできたのすべてが込められていた。
裏切りという酷ながあったからこそ、の本当の温もりをることができた。
理尽な追放という嵐があったからこそ、絶対に揺るぎない族の絆を自らので掴み取ることができた。
彼女は運命に流される被害者のままで終わることを拒み、自分のでちがり、自らのでこの美しい虹をの空に架けたのだ。
「さあ、帰ろうか。私たちの温かいへ」
圭吾の優しい声に、子供たちが斉に笑顔で頷いた。
茜の夕陽とのがり注ぐ、の族は肩を寄せい、ゆっくりと歩き始めた。
その仲睦まじい背を、夕暮れの柔らかなが、どこまでも温かく照らし続けていた。