"母が隠した四十九枚の領収書" 第9話
パンを買った』 『 さんが来て、ドアを叩いて鳴った。怖くて押し入れに隠れていた。もうここにはいられない。おばあちゃんのにこうとう。央線の線に沿って歩けば、梨にけるとお父さんが言っていた』
指先が震え、ノートの端が破れそうになった。 ページをめくるごとに、過酷な現実がの無垢な言葉で綴られていた。 京・鷹のアパート。蒸し呂のようなの部。ネグレクト。消えた両親。 は、気もガスも止められた部で飢えに耐えかね、梨にんでいたという祖母の記憶だけを頼りに、夜の甲州をで歩き始めたのだ。
何歩いたのだろうか。靴底が擦り切れるまで、をみ、落ちていた銭を拾いながら、は央に沿ってへ、へと歩き続けた。 そして、野の茅野ので力尽きかけ、夜の豪のを彷徨っていたところを、猛スピードで突っ込んできた佐伯静のにねばされたのだ。
ノートの最のページ。 そこには、クレヨンで描かれたくそなの絵と、だけの文字があった。
『ぼくのなまえは、ゆうきです。』
「……ゆうき」 声が震えた。 「ゆうき……僕の名は、ユウキだったのか」
「それ以のことは、かれていなかった」 梨が静かに言った。 「名字も、鷹のどのアパートかも、親の名もな。
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当、鷹の警察に問いわせることも考えた。だがな、あの代、親が借を踏み倒して夜逃げし、置きりにされた子供の捜索願など、ているはずもなかった」
老は座布団に座り直すと、く息を吸い込んだ。 「おが目を覚ました、完全に記憶を失っていた。自分が誰かも、親から捨てられたことも、飢えに苦しんで歩いた記憶も、すべて消えていたんだ。……静さんがな、おのを握って泣き崩れた、私はってしまったんだよ」
「ってしまった……?」
「このまま素性を洗えば、おは児童相談所に送られ、養護施設を転々とするだろう。元引受もいない、戸籍の親からも見捨てられた子供だ。方で、静さんは実の息子を植物状態にした罪で役し、あの子もまた寄りのない度障害者として国の施設で朽ち果てる。……つの庭が、完全に破滅するだけだとな」
「だから、僕を佐伯航平に仕てげたと? それが、あなたの『善』だったと言うんですか!」
「善などではない!」 梨の鋭い声が、僕の言葉を遮った。 老は両を膝のでく握りしめ、青筋を浮かびがらせていた。
「ただの保だ! あの事故を隠蔽したのは、静さんのためでも、おのためでもない! 私の診療所が、無免許運転の傷者を警察に通報せず受け入れたという過失を、域社会にられたくなかったからだ! 私は自分の名誉を守るために、静さんの狂気に乗っかったんだよ!」
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梨の肩が、激しくしていた。 を過ぎた老医師のから吐きされたのは、美しいヒューマニズムなどではなく、剥きしの自己保だった。
「静さんは、おを連れて京へ逃げた。あいつはな、おを育てることで、自分が犯した罪を毎償っていたつもりだったんだ。だがな、見ろ」 梨は震える指で僕を指さした。 「派に育ったじゃないか。スーツを着て、役所に勤めて、まともに飯をえている。鷹のあの腐ったアパートで餓しかけていたおが、佐伯航平という戸籍を得たことで、ここまでき永らえたんだ。……それを今さら暴いて、おは親のいない、戸籍もない、の浮浪児に戻るつもりか!」
「違う!」 僕はちがり、テーブルを拳で叩いた。 「僕は、きていただけだ! 誰かの罪を誤魔化すための板としてかされていただけだ! 母さんは……母さんは度だって僕自を見ていなかった! 毎万円の領収を缶に隠して、僕の顔を見るたびに『息ができない』と言っていたんだ! そんなが、派だとでも言うんですか!」
梨は顔を覆った。指の隙から、濁った涙が筋こぼれ落ち、皺だらけの頬を伝っていった。
「……静さんから、が来ていた」 老はく呟いた。 「、おが公務員試験に受かっただ。通だけ、あのからが届いた」