"母が隠した四十九枚の領収書" 第3話
青峰苑にもくな。あそこはおがっていい所じゃない。静がどんないでおを京に連れてったか、おは何も分かってないんだ』
「叔父さん!」 ツーツー、という無質な切断音が元で鳴り響いた。
受話器をフックに戻すと、背にたい汗が張り付いていた。 逃げるように公衆話をて、駅のホームへ向かう階段を駆けりる。 母の顔が浮かんだ。 抗がん剤の副作用で髪が抜け落ち、骨と皮ばかりになったで、病のベッドから僕の顔を見つめていた母。 あの、母はかすれた声で僕に言ったのだ。
「航平……ごめんね。あんたの顔を見てるとね、々、息ができなくなるの」
親孝な息子に向けた言葉ではなかった。 あれは、罪が己の犯した業をにして漏らした、絶望の告だったのだ。
翌朝、僕は司に「忌引きの続きが引いている」と嘘をつき、休暇の申請をした。 古い軽自のナビに、野県茅野の所を入力した。 央自をへる、助席には母のビスケット缶から抜き取った枚の受领証が置かれていた。
京の並みがざかり、梨の々を抜け、ヶ岳の裾野へと入っていく。 初の野の空気は澄み切っていて、窓をけると針葉の鋭い匂いがした。 平成の。僕が記憶を失ったあの事故の現も、この空のにあったはずだった。
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ナビが示した目は、茅野のからさらに奥へ分け入った、舗装の途切れた林の終点にあった。 いのに、平建ての古びたコンクリートの建物がを潜めるように建っていた。 『特定非営利活法 青峰苑』 製の板はに晒され、文字の半分が黒ずんで剥がれ落ちていた。
をりると、鳥の鳴き声との音しか聞こえなかった。 呼吸をつして、僕はガラス張りの玄関ドアを押した。 チャイムを鳴らすと、奥の事務から、エプロン姿の髪交じりの女性がてきた。
「はい、どちら様でしょうか?」 「あの……京から来ました、佐伯と申します」
僕はポケットから、最の振替受領証のコピーを取りし、カウンター越しに差しした。 「母の佐伯静が、こちらへ毎寄付……いえ、維持費を納めていた関係で伺いました。母がヶに界しまして」
女性は鏡の奥の目を細め、類に線を落とした。 「佐伯……静さん……ああ、区の」 彼女の表が、ふと止まった。 線が類から、僕の顔へとがってくる。
女性の目が、見かれた。 まるで、見てはならない化け物でも目撃したかのように、彼女の元が刻みに引き攣った。
「あなた、お名は?」 「佐伯、航平です」
女性はに持っていた類をに落とした。 ガサリと音をてて散らばったを見ろすこともせず、彼女は震える指を僕に向けた。
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「そんな……嘘でしょう。どうして……」 「あの、どうかしましたか」
「航平さんは」 女性の声が掠れていた。 「航平さんは、からずっと、番奥の部で寝たきりなんですよ」
廊の突き当たりにあるリノリウムのは、ワックスが剥げてく濁っていた。
案内する職員の女性——名札に「野」とかれたそのは、スリッパを引きずるような音をててむ。消毒液と、漂剤と、古いおむつの混ざりった特の臭気が、腔の奥にく沈殿していた。
「こちらです」
野がち止まったのは、製の引き戸にきのプレートががった部のだった。『百号』。 戸が引かれると、微かな具の軋む音がした。
カーテンは半分だけ閉められ、が細いの帯となって畳のに落ちていた。 介護用のパイプベッドが央に置かれている。 そこに、の若い男が横たわっていた。
僕は、敷居のでが止まった。
男は、井の点を凝していた。瞬きは極端になく、かれた瞳はを反射しているだけで、焦点を結んでいない。 剃りげられたの側には、赤の太い術痕が、の裏から部にかけて引き攣れたミミズのようにっている。痩せ細った首筋、い掛け布団のからでもわかる、刻みに痙攣する細い指先。
枕元の壁に、透なプラスチックの板が打ち付けられていた。