"母が隠した四十九枚の領収書" 第2話
戸籍、佐伯静の子供は、にんだ「航平」ただ。
僕は震えるで、胸元の職員証をした。 プラスチックのケースのに、顔写真と並んで印刷されている文字。 『区役所 区民部民課 主事 佐伯 航平』
財布から運転免許証を取りす。 『佐伯 航平 昭』 民基本台帳カードも、健康保険証も、帳も、すべて「佐伯航平」名義だった。
「じゃあ……僕は誰なんだ」
喉の奥から乾いた空気だけが漏れた。 歳。平成の。 のに浮かぶ記憶は、酷く曖昧だった。 あのの、僕は確かに病院のベッドので目を覚ました。 く濁った井。消毒液の匂い。には分い包帯が巻かれていて、全が激痛で軋んでいた。 枕元で泣き崩れていた母が、僕のを握りしめて言ったのだ。
「航平、よかった……本当によかった。あんたがきててくれて」
をく打ったせいで、事故以の記憶がほとんど抜け落ちていた僕に、母は優しく微笑みながらアルバムを見せてくれた。 学の入学式、運会、休みの。 写真のの丸顔のを、僕は自分自だと信じて疑わなかった。 退院、母はそれまでんでいたアパートを引き払い、具のほとんどを処分して、区の団へと引っ越した。 学の同級とは誰とも連絡を取らせてもらえなかったが、「あんたが事故で記憶を失ったことを、からかわれるのがだから」
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という母の言葉を、僕は親のいだとい込んでいた。
机のの話が鳴った。 ビクッと肩がねる。内線だった。 「佐伯くん、窓に転入届のお客様来てるよ」 「あ……はい。すぐきます」
ちがろうとしたが、に力が入らなかった。 自分が踏みしめているが、い氷のように崩れていく覚。 の。 学を卒業し、採用試験に格し、毎朝スーツを着て民の民票を発してきたこの男は、公の帳簿のどこにもしない「幽霊」だった。
定を告げるチャイムが鳴ると同に、僕は机のの類を鞄に詰め込み、タイムカードを押した。 向かったのは区の団ではなく、千駅の公衆話だった。
携帯話の履歴に残したくなかった。 帳から、野の祖母のに今もで暮らしているはずの叔父——母の弟である佐伯敏夫の固定話の番号を探しし、円玉を数枚投入した。
呼びし音が回鳴った、く掠れた男の声がた。 『はい、佐伯です』 「敏夫叔父さんですか。航平です」
受話器の向こうの空気が、ふっと止まった。 わずかな雑音のに、相が息を呑む気配が伝わってくる。
『……航平か。静のはまだ先だろ。どうしたんだ急に』 叔父の声には、肉親に対する温かみではなく、何かに怯えるような、い警戒のが混ざっていた。
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「母さんの遺品を理していたら、古い戸籍謄本がてきました」 僕は、努めて平坦な声をした。 「平成に、野で僕がんだことになっていました」
沈黙が落ちた。 数秒にもえる静寂の、叔父のい吐息が受話器を震わせた。
『……見つけたのか』 「どういうことですか、叔父さん。僕は今、京できています。区役所で働いて、税も払っている。それなのに、歳の僕がんだって、どうして母さんはそんな届けをしたんですか」
『話で話せることじゃない』 敏夫の声はく、たかった。 『静が墓まで持っていった話を、今さら掘り返してどうする。おは佐伯航平としてきていけばいいんだ。それでおは困ってないだろうが』
「困ってます!」 公衆話の狭いブースので、僕はわず声を荒らげた。ガラスの向こうを通勤客が怪訝そうに見し、僕は慌てて喉を絞った。 「母さんは、毎万円、野の青峰苑という所にを振り込んでいました。枚の受領証がありました。受取の名は、佐伯航平です」
ガタン、と受話器の向こうで物が落ちる音がした。 敏夫の息が荒くなっていた。
『あいつ……まだ払ってたのか。静のやつ、ぬ直まで……』 「青峰苑にいるのは誰なんですか。僕の代わりにんだことになった子供は、誰なんですか!」
『来るな』 敏夫が遮るように吐き捨てた。
『茅野には来るな。