"消された合格通知" 第10話
は注文数を半分に減らす条件を提示した。百貨側は難を示したが、納期を回に分けることでした。利益は予よりなかった。それでも、誰も辞めず、品質事故も起きなかった。
直は作業規則に、急な受注を受けるは全員の同を取ること、断ったの評価をげないことをき加えた。派な理を掲げるより、自分が追い詰められたにも守れる仕組みにする方がだった。
名は《余》にした。には予定どおり埋まらない所がある。そこを失敗で塗り潰さず、次に何を置くか考える所にしたかった。
業から、《麦の灯》は販売を週に縮した。拓はホテル勤務を本業にし、父は午だけ厨へった。塩麹あんパンは曜限定で残った。
母と父は婚した。子は営宅のくの図館で週働き、自分の座から賃を払った。直とはに度ほど事をしたが、母が父の愚痴を始めると、直は「それは友達か相談員に話して」と止めた。
子は々寂しそうにした。それでも「息子なんだから聞いて」とは言わなくなった。の関係は元へ戻ったのではない。初めて、母と成した息子として作り直されつつあった。
ある、《余》にからが届いた。文化祭でパンを販売したいので、発酵について教えてほしいという依頼だった。
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直は封筒を机に置いたまま、しばらく見つめた。い封筒を見ると、今も歳のをいす。届いていたのに、自分だけがらなかった。
理が「けないの?」と聞いた。
直は笑い、自分の指で封を切った。
たちは、元の余った林檎を使いたいといていた。直はすぐ承諾せず、での程と費用を検討した。無料で全部引き受ければ美談になるが、仕事は続かない。材料費は学が負担し、指導料の部はの域活助成を申請する条件で受けることにした。
講習の、の徒がへ来た。の男子が、を焦がして青ざめた。
「すみません。もう向いてないかもしれません」
直は焦げたパンを捨てず、半分に切った。「どこから温度ががりすぎたか見よう。失敗は、誰かが君のを決める理由にはならない」と言った。
言いながら、歳の自分にも同じ言葉を渡している気がした。
文化祭当、林檎パンは完売した。元が取材に来て、代表の徒へ「将来はパン職ですか」と尋ねた。
男子徒は困ったように笑った。「まだ分かりません。パンも好きだけど、械を作るのも好きなので」と答えた。
直はその曖昧な返事がうれしかった。歳は、今すぐを決めなくていい。はを示せても、本の代わりに扉を閉めてはいけない。
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帰り際、会の端に昭がっていた。父は直へづかず、林檎パンを個買い、徒に代を払った。目がうと、さくをげた。
直も同じだけをげた。それ以は何もなかった。
父が完全に変わったとはわない。今も所では、男が突然を捨てたと話すことがあるらしい。直を許していない客もいる。拓との関係も、正にい連絡を交わす程度だった。
それでよかった。全員に真実を理解させ、父に正しい言葉で謝らせ、弟にから謝させなければへめないのなら、直のはまだ族に握られたままだ。
夕方、へ戻ると、しい封筒が郵便受けに入っていた。域の福祉施設から、糖質パンの共同発を相談したいというだった。
直は誰にも先に渡さなかった。父の判断も、母の沈黙も待たなかった。机ので封を切り、条件を読み、自分で考えた。
断ってもいい。受けてもいい。途で話しい、条件がわなければ戻ってもいい。
、奪われたのは学だけではなかった。自分で選び、失敗し、選び直す権利だった。
その権利は、格通のコピーと緒に戻ってきたのではない。をた朝から、売れないパンを作った、契約を読み、父の頼みを断り、母の寂しさを背負わなかったまで、しずつ自分のへ取り戻してきた。
直はの予定表に、福祉施設との面談候補をき込んだ。
自分の名ではなく、理と宋が参加できるを選んだ。
窓のでは、のが静かにっていた。のはの分量をし変える。昔は父に言われた数字を守るだけだったが、今は理由を確かめ、仲と記録し、次のへ渡す。
直は翌朝のを仕込んだ。発酵にはがかかる。急いで温めすぎれば膨らんでもが浅くなる。が変わるも、失ったをき直すも、たぶん同じだった。
父を許せるは来るかもしれない。来ないかもしれない。母との距がまた変わることも、弟と緒に何かを作るもあるかもしれない。
だが、どの扉をけるかは、もう自分で決める。
オーブンの予ランプが消えた。直はしい板を両で持ち、誰の物語にも隠れず、自分の選んだ朝へ歩いていった。
のでは、文化祭を終えたたちが笑いながら駅へ向かっていた。彼らがどのを選んでも、選ばなかったまで失敗と呼ぶ必はない。直もようやく、けなかった学だけで自分のを測らずに済むようになっていた。