"「手術は後でいい」三千万円の古希祝いに狂った夫の末路" 第23話
良枝はく息を吸い込み、最の撃を放った。
「あなたは私の見栄の犠牲者なんかじゃない。あなたは自分自の虚栄という怪物にべられてしまったのよ。れな男ね。私にはもう、あなたを息子だと呼ぶことはできないわ」
その言葉が落ちた瞬。
孝之を支えていた最の見えない糸が、プツリと切れる音がしたような気がした。
彼は何かを言い返そうとをパクパクと閉させた。
しかし喉からは「ヒュッ」というような、引きつった息の音しか漏れてこない。
彼は助けを求めるように座に座る叔父を見た。
しかし叔父は、汚いものでも見るように顔を背け、たく目を閉じた。
の親族たちも、誰1として彼と目をわせようとはしない。
孝之はゆっくりと、畳のにへたり込んだ。
両で自分の顔を覆い、カタカタと肩を震わせている。
泣いているのか、ただ恐怖に震えているのかは分からない。
声をげて泣き叫ぶ気力すら彼にはもう残っていなかった。
彼はただ自分のついた嘘のさに押しつぶされ、完全な沈黙のに沈んでいったのだ。
私はその姿を、めた目でじっと見ろしていた。
26私が言葉を尽くして向きってきた夫の、これが本当の正体だった。
周囲の目を気にして自分を飾りて、その飾りが剥がれた途端に自らのでつことすらできなくなるい。
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そんな彼に対して、私はもうりすら湧いてこなかった。
「お義母さん」
私は静かに声をかけた。
良枝がゆっくりとこちらを向いた。
その目は赤く充血していたが、憑き物が落ちたように穏やかなを宿していた。
「今まで、本当にありがとうございました。私はこれで失礼します」
私がくお辞儀をすると、良枝は黙ってくく頷き返してくれた。
私は畳のでうずくまる孝之には瞥もくれず、背を向けて居をた。
玄関のい引き戸をけると、眩しい朝のが目にび込んできた。
たく澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込む。
息苦しい嘘と見栄に満ちた夫のから抜けした瞬、私の肩に乗っていた見えないりがすっと消えるのをじた。
私はもう、誰の顔を伺う必もない。
自分の判断で、自分の切なものを守ってきていけるのだ。
タクシーに乗り込み、久美子が待つ病院へと向かった。
窓のの景は、昨までとは全く違って見えた。
の葉がに揺れる様子も、すれ違う々の何気ない取りも、全てがしく鮮やかに輝いて見えたのだ。
病院に到着すると、私はすぐに集治療の待へと向かった。
計の針は正午を回ろうとしている。
午になればいだが、久美子と面会ができるはずだった。
私は自販で温かいお茶を買い、子にく腰をろした。
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膝のには久美子のの権利と私の活資がしっかりと守られたバッグがある。
あとは、弁護士を通して婚の準備をめ、久美子の回復を待つだけだ。
私のは静かな寧に包まれていた。
しかし、その穏やかなはくは続かなかった。
午2を過ぎた頃。
静まり返った廊の奥から、い音がづいてくるのが聞こえた。
靴の裏を引きずるような、ひどく疲労した音だ。
私はお茶の入ったコップからをし、音のする方へと顔を向けた。
そこにっていたのは、孝之だった。
昨の祝宴で着ていた級なスーツは無惨にシワだらけになっている。
ネクタイはされ、シャツの襟元はだらしなくいていた。
髪は乱れ、目のにはい隈が刻まれている。
親族から見放され、母親からも絶縁を突きつけられた彼は、く当てもなく結局私のところへ来るしかなかったのだろう。
孝之は子に座る私のにつと、力なく目を伏せた。
「直子……」
ひどくかすれた、気のない声だった。
「母さんから、おの母親の術が無事に終わったと聞いた。俺が悪かった」
それは結婚して初めて聞く、彼からの確な謝罪の言葉だった。
彼は私がこの言葉を聞けば、しは態度を化させるとったのだろう。
あるいは、自分が謝っているという事実だけで許されるべきだと信じているのかもしれない。