"「手術は後でいい」三千万円の古希祝いに狂った夫の末路" 第17話
良枝は化粧でたいで顔を洗い、し落ち着きを取り戻した。
そして再び宴会へ戻ろうと、暗い裏廊を歩いていたのことだ。
非常階段の扉のから、孝之の声が聞こえてきた。
誰かと話をしているようだった。
良枝さんがづこうとした、孝之は話の相に信じられないことを言っていたのだ。
「あの子、笑っていたわ。お酒に酔った、ひどく嫌の良い声でね。話の相はおそらく、元の産かの友だったとう」
良枝は自分の両腕をく抱きしめた。
まるでその言葉をいすだけで、全が凍りつくかのように。
私は膝ののスマートフォンを握るに、ぎゅっと力を込めた。
「孝之はこう言ったの。『配するな。3000万円の支払いは、ちゃんと当てがあるんだ』って」
その言葉に、私はわずかに眉をひそめた。
私たちの老資はすでに底を突きかけている。孝之にそんなを用できる当てなど、どこにもないはずだった。
良枝はく息を吸い込み、最も恐ろしい真実をにした。
「あの子はこう続けたわ。『実は今、妻の親が臓の緊急術をしていてね。正直もうくないだろう』って」
私の臓がドクンと嫌な音をてた。
「『もしものことがあれば、妻が実のと建物を相続する。駅のいい所だから、売れば3000万円なんてすぐに回収できるさ』」
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良枝の声が、廊にたく響いた。
「『葬儀で俺がしっかり仕切ってやれば、親戚からの評価もがるし鳥だよ。母親の古希祝いも完璧にこなして、妻の親の面倒も見る。誰も俺に文句は言えない』」
私はその言葉を聞いて、呼吸の仕方を忘れてしまったかのようだった。
孝之は私の母である久美子の命を、自分の借返済と見栄のための具として計算していたのだ。
祝宴の席で久美子の術を「でいい」と言い放ったのは、ただ無神経だったからではない。
彼はの底で、久美子がこのままくなることを、自分の都の良い資として期待していたのだ。
「私はその言葉を聞いて、そのでへたり込みそうになったわ」
良枝の目から粒の涙がボロボロとこぼれ落ちた。
「自分の息子は、ここまで恐ろしいになってしまったのかと」
の命をに換算して、自分の虚栄を満たすためだけにきている怪物に。
良枝は両で顔を覆った。
「あの子は私のこともしてなんかいない。久美子さんのことも、あなたのことも、ただの便利な具だとしかっていないのよ」
だから良枝はあの宴会に戻り、親戚たちので孝之を完全に突き放したのだ。
自分の見栄のために、これ以誰かの命が踏みつけられるのを見過ごすことはできなかったから。
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私は泣き崩れる良枝の背を、ただ静かに見つめていた。
私のには議なほど、涙はありませんでした。
しみや絶望といったすら、すでに通り過ぎていました。
残ったのは、絶対零度のたい納得だけです。
私が26懸命に言葉を尽くして説してきた相は、のを持っていなかった。
その事実が、かえって私を自由にしてくれました。
もう彼に理解を求める必はない。
これからの私のに、孝之という男は1秒たりとも必ないのだ。
「お義母さん、話してくれてありがとうございます」
私が静かにそう言うと、良枝は顔をげ、すがるような目で見つめてきた。
「直子さん、本当にごめんなさい。私があの子を甘やかして育てた結果よ。あの子の責任は私が必ず取らせるから」
私は首を横に振った。
「いいえ。孝之さんのは、孝之さん自の責任です。お義母さんが背負う必はありません」
私は子からちがった。
計を見ると、午9を回ったところだった。
先ほど集治療の医師から、久美子の容態が完全に定したと説を受けている。
「今はもう面会できないので、度ご自宅に戻って休んでください」と医師にも言われていた。
「私、度に帰ります」
私がバッグを肩にかけると、良枝が配そうにちがった。
「孝之がいるかもしれないわよ。1で帰るのは危険じゃない?」
「孝之さんはおそらく、ホテルからけないはずです」