"「手術は後でいい」三千万円の古希祝いに狂った夫の末路" 第15話
なのカーディガンを羽織り、化粧もほとんどしていない。
その顔にはい疲労と、何かを決したような鋭いが宿っていた。
良枝のには、古びた茶い袋がしっかりと握られている。
私は驚きのあまり言葉を失い、ただちがることしかできなかった。
良枝は私の目のまで来ると、その袋を私の方へ静かに差しした。
「お義母さん、どうしてここに……」
私が尋ねるよりく、良枝のから信じられない言葉がこぼれ落ちたのだ。
病院の窓から、たく青い夜けのが差し込み始めていた。
い夜が終わり、静まり返った廊に、定のリズムで音が響いてきた。
コツコツという乾いた音。
私が顔をげると、そこには昨夜、ホテルの宴会から姿を消したはずの良枝がっていた。
華やかなの装も、丁寧な化粧も、そこにはなかった。
なのカーディガンを羽織り、髪もし乱れたままの良枝は、ひどく疲れた顔をしていた。
良枝のには、古びた茶い袋がしっかりと握られている。
「お義母さん、どうしてここに?」
私が驚いてちがろうとすると、良枝は無言のままでそれを制し、私の隣の子に静かに腰をろした。
「久美子さんは、どうなの?」
かすれた、ひどく力の抜けた声だった。
私が無事に術を終えて集治療で眠っていることを伝えると、良枝はく息を吐きした。
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そして、信じられないにたのだ。
良枝は子からちがり、たい病院のに膝をつくようにして、私に向かってくをげた。
「ごめんなさい。本当に申し訳ないことをしたわ」
私は言葉を失った。
結婚して26、世体と男の母としての誇りを何よりも切にしてきた良枝が、こんなにをげる姿など度も見たことがなかったからだ。
「お義母さん、やめてください。孝之さんがしたことと、お義母さんは関係ありません」
私が慌てて肩に触れると、良枝は顔をげ、しそうに首を振った。
「いいえ。私があの子を、あんなに育ててしまったのよ」
良枝は再び子に座ると、にしていた茶い袋をそっと私の膝のに置いた。
「を見てちょうだい」
私は促されるままに、袋のをいた。
に入っていたのは、分いのカタログと、実の回りのリフォームの契約だった。
そして番には、私が昨夜送ったあの雑誌のインタビュー記事を印刷したが入っていた。
カタログも契約も、真んから無惨にビリビリに破り捨てられていた。
「昨の夜、ホテルをた、すぐに業者に話して全部解約したわ。違約は私の貯から払うと伝えたの」
良枝の言葉に、私は驚いて顔をげた。
「でもお義母さんは、あのリフォームを楽しみにしていたじゃありませんか」
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良枝は自嘲するようにさく笑った。
「そうね。最初は本当に嬉しかったの。夫がくなってから、のがしずつ古くなっていくのが寂しかったから」
良枝の目が、くの過を見るように細められた。
「でもね、あの子の計画がどんどんげさになっていくのを見て、しずつ息苦しくなっていったの」
良枝の言葉は、私自がじていた違と全く同じものだった。
孝之の親孝は、母親をばせるという目かられ、巨なのように膨らみ続けていたのだ。
「昨の祝宴で、あの子は親戚のテーブルを回りながら、ずっと見せびらかすように話していたわ。自分がどれだけ稼いでいるか、どれだけ親孝をしているか」
良枝の声が、しだけ震え始めた。
「親戚のみんなは、あの子を褒めちぎったわ。『さすが男だ』『お母さんは幸せだね』って。あの子はその言葉を浴びるたびに、どんどん顔を赤くして声がきくなっていった」
良枝は自分の両をきつく見わせた。
「あの子はお酒に酔っていたんじゃないわ。者からの賞賛という、もっと気の悪いものに溺れていたのよ」
その言葉は、私の胸の奥にストンと落ちた。
孝之が私の説にを貸さなかった理由。
久美子の術を「でいい」と切り捨てた本当の理由。
それは彼がただ酷なだからと言うだけではなかった。