"頭金300万を1万円にした婚約者の末路" 第15話
「悠馬。貴方はお義母さんと別居なんてできないわ」
悠馬のきが止まった。
「貴方はね、お義母さんをしているから言うことを聞いていたんじゃないの。お義母さんの嫌にち向かう勇気がないから、私を贄にして差ししていただけよ。そして今度は、自分が警察や会社に追い詰められたから、あっさりと母親を切り捨てて私に縋ろうとしている」
私は、子の背もたれにく寄りかかり、宣告した。
「誰かを盾にしなければ歩も歩けない男を、私は夫としてすることはできない。度と私のに現れないで」
悠馬のが、だらしなくいたまま塞がらなくなった。 涙とに塗れたその顔は、を過ぎたの男ではなく、駄々をこねて玩具を取りげられた子供そのものだった。
隣で、登紀子がわなわなと震えながら、絞りすような声で言った。 「……払えば、いいんでしょう。払えば」
登紀子は血った目で私を睨みつけていた。 「主の残したわずかな命保険にをつけて……払ってやるわよ! その代わり、度とうちの敷居を跨がないで頂戴! こんなのない、悪魔みたいな女、こっちから縁を切ってやるわ!」
負け惜しみの言葉は、もはや私をかすりもしなかった。 「ええ。どうぞ、その歪んだおで、おで永に仲良く暮らしてください」
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署名と捺印は、械にめられた。 内弁護士がち会いのもと、示談にの震えるサインが刻まれ、公正証の作成続きへの委任状もえられた。支払いが滞れば、即座に与と預座の差し押さえがわれる制執受諾文言付きのものだ。
続きが終わると、私はコートをに取り、真っ先にちがった。 「内先、ありがとうございました。あとの事務処理はよろしくお願いいたします」
「お疲れ様でした、桐さん。堂々とした、派な決断でしたよ」
私はに度も線を戻すことなく、会議のドアをけてへた。 背から、登紀子のすすり泣く声と、「母さん、どうすんだよこれ……」という悠馬の々しい呻きが微かに漏れ聞こえたが、い防音ドアが閉まると同に、すべては遮断された。
法律事務所のビルをると、え切った師のが通りを吹き抜けていた。 はくもクリスマスと末のイルミネーションで彩られ、を急ぐ々の音が賑やかに響いている。
私はち止まり、マフラーに顔を埋めて、きく息を吸い込んだ。
胸の奥に広がっていたのは、驚くほどの静寂だった。 勝ったという揚も、相を打ち負かした復讐のもない。 ただ、自分のの舵を、自分の両でしっかりと握り直したという、く、揺るぎない応えだけがあった。
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週。 都ホームから、私の個座へ百万円が全額振り込まれたことを示す通が届いた。 さらに翌、公正証に基づき、佐伯側の座から百万円の慰謝料が括で着した。
越の佐伯邸がどうなったのか、私にはる由もない。 ただ、務の田から完報告の連絡を受けた際、漏れ聞いた話によれば、を剥がされたリビングは修復の予算がたず、板を敷いただけの状態で放置されているらしい。 息子の与の半は母親の活費と今回の負債の補填に消え、は隙の吹き抜けるえ切った廃墟のようなで、互いを怨嗟の目で見つめいながら暮らしているという。
だが、それはもう、私の物語の側の来事だった。
がけた、私は杉並のマンションを引き払い、武蔵野の静かな宅にある当たりのいいアパートへ引っ越した。 向きのリビングには、私がデザインした理調のさなダイニングテーブルと、自分で選んだお気に入りのペンダントライトを吊るした。
荷解きを終え、淹れたてのコーヒーを片に窓辺につ。 ベランダの向こうには、の澄み切った青空がどこまでも広がっていた。
座の残は、私のの努力の証である百万円と、勝ち取った尊厳の対価で、静かに満たされていた。
それは誰の顔を窺う必もなく、誰の理尽な犠牲にも供されることのない、私だけのを築くための、確かな台だった。
私はコーヒーの湯気の向こうに広がるを見つめ、さく微笑んだ。 私の本当の活は、ここから始まるのだ。