"1800円の御膳が1万8000円になった日――覆面社長が見つけたホテルの嘘" 第19話
正しい数字
方の再から1が過ぎた。
486件の返はすべて完し、連絡先を確認できなかった17件についても相談窓を継続している。藤堂夫妻は捜査と裁判ので責任を問われ、会社も1260万円の返還と損害賠償を求める続きをめた。松井についても、当請求へ加担した記録が捜査関へ提された。
事件直に落ち込んだ予約数はしずつ戻った。ただし、私は回復した売だけを成功の証拠にはしなかった。18舗のアンケートは評価も含めて取締役会へ報告され、削除や修正の履歴は独部署が監している。注先との契約では、関係者の申告と作業記録の確認が必須になった。
役員会へ提した私の辞任届は、再発防止と返を完するまで保留された。その、改めて退を諮った結果、私は社職を続けることになった。見逃した責任が消えたわけではない。だからこそ、数字だけでをったつもりにならず、毎、自分ので異なる舗へ入ると決めた。
役員会では、良い報告より悪い報告を先に読む運用へ変えた。苦がい舗を罰するのではなく、問題を隠した舗と、申告した従業員を放置した管理者を厳しく確認する。数字のさより、数字を作り替えることの方が危険だと、会社全体へ文化した。
ある平の昼、私は1と同じ落ちしたジーンズと履き古したスニーカーで、方のレストランを訪れた。
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事の連絡はしていない。
入にいた従業員は私の顔をらなかったが、装へ目を落とすこともなく、庭の見える席と静かな奥の席のどちらがよいか尋ねた。私はあえて、かつて柱のがあった所にい席を選んだ。
その従業員は私が社だとらないまま、古いスニーカーで濡らしたをさりげなく拭き、荷物台を寄せてくれた。過剰にへりくだることも、ぞんざいに扱うこともない。役職をかさなくても受けられる普通の接客が、何より確かな変化にえた。
隣には、作業着姿の齢男性がで座っていた。従業員は腰をかがめ、聞き取りやすい速度で料理を説している。窓際のスーツ姿の客にも、学にも、同じ笑顔が向けられていた。
私は季節の炊き込みご飯御膳を注文した。
鶏肉とごぼうのり、丁寧に取っただし、さな器へ盛られたの物。料理のは、最初に来たとほとんど変わっていない。変わったのは、内を分断していた見えない境界線だった。
事を終えると、しい仕係が黒いバインダーを両で差しした。
「お会計は、1800円でございます」
私は伝票をもう度見た。追加料も、特別席という文字もない。POSから印刷された額は、メニューと同じ1800円だった。
財布から2000円をすと、仕係はレジで処理し、200円の釣りと正式な領収を戻した。
その連の作を、誰も隠そうとはしない。
「何かお気づきの点はございませんでしたか」
私は、るくなった内を見回した。壁には翔太が描いた絵が、さな額に入れて飾られている。ホテルのにつ祖母と孫、そのに青い自転。絵のには、澄から届いたいが添えられていた。
〈今も、主の誕に伺います〉
私は領収を財布へしまい、仕係へ答えた。
「いいえ。とても正しい会計でした」
をると、初のがホテルの旗を静かに揺らしていた。
1、私は1800円が1万8000円になったことで、このの嘘をった。
今、目のにある1800円は、利益でも順位でもない。料理を作ったと、それをべた客のにある、当たりの約束だった。
今度こそ、その数字には誰の涙も隠れていなかった。